何段も階段を上り、やっと次の部屋へと辿り着くマルクエンとラミッタ。

「それじゃ、開けるぞ」

「えぇ」

 覚悟を決め、マルクエンは重い扉を押し開ける。

 部屋の中を見ると、スポットライトのように中央が光で照らし出された。

 眩しさで目を細めた後に、視界に入った物を見てマルクエンは驚く。

「なっ!? ラミッタ!? それに……」

 そこに居たのはラミッタと、自分自身だった。

「は!? 宿敵が二人!?」

 ラミッタは隣のマルクエンと、スポットライトに照らされるマルクエンを交互に見る。

 マルクエンは向こう側のラミッタをよく見た。顔の傷跡が右側ではなく左側にある。



 スポットライトの元に居るラミッタとマルクエンが話し始めた。

「宿敵、私達の偽物が現れたようね」

「あぁ、そうだなラミッタ」

 そう言って剣を抜く、何だか向こうの二人は互いの距離が近かった。

「えぇ、私達の愛のパワーの前ではあんな偽物は敵じゃないわ」

「ちょっと待てえええぇぇぇぇ!!!!」

 偽ラミッタの言葉にラミッタは絶叫する。

「何言ってんの!! ホント何言ってんの!?」

 そんな事はお構いなしに、向こうの二人は盛り上がっていた。

「ラミッタの姿をしている敵を斬るのは心苦しいが、愛の力で勝とう!!」

「宿敵……」

 見つめ合う二人、そんないい雰囲気にラミッタは特大の炎をブチ込んだ。

「あーもう!! あーもう何よこれ!? 私の姿で好き放題変なことしてんじゃないわよ!!!」

 飛び退いて避ける偽物達。

「ふん、私達の仲はそんな炎で()く事は出来ないわ!!」

「そうだ、私達の仲はこんな炎よりも熱い!!」

「宿敵……」

「ラミッタ……」

 そんなやり取りを見てラミッタは怒りと恥ずかしさで顔を真っ赤にしている。

「やー!!! もういやー!!!」

 ラミッタは絶叫しながら氷、雷、炎を撃ちまくっていた。

「甘いわね!!」

 偽ラミッタは防御壁を張り、その後ろで魔法を耐えている。

「宿敵、さっさと倒すわよ!!」

「っ!! あぁ!!」

 ラミッタに言われ、マルクエンも剣を構えて突っ込む。

 目の前に躍り出てきた偽マルクエンと剣がぶつかり合う。

「っ!!」

 マルクエンは驚いていた。自分とほぼ互角の力で鍔迫り合いを繰り広げられたからだ。

「ただ見た目が同じ……、って訳ではなさそうだな」

 後ろに引いてマルクエンは間合いを取るが、偽ラミッタが魔法で追撃をしてきた。

「好き勝手させないわよ!!」

 ラミッタも火や氷を反対属性の魔法で打ち消し、マルクエンの援護をしつつ前に出てくる。

「宿敵、各個撃破するわよ!!」

 自分の偽物と戦いあっては消耗するだけだと考えたラミッタはそう叫ぶ。

「まずどっちを狙う!?」

「偽物の私を狙うわ!!」

「分かった!!」

 マルクエンは偽ラミッタに駆け寄り剣を振り下ろした。

「甘いわね!!!」

 偽ラミッタは魔法の防御壁を張ってそれを受け止める。

「はああああ!!!」

 マルクエンは力を込めて無理やり防御壁を割ろうとした。そこに駆け寄ったのは偽マルクエンだ。

「させるか!!」

 偽物の剣を躱すためにマルクエンは防御壁から離れる。

「大丈夫かラミッタ?」

「えぇ、平気よ」

 そう言って偽ラミッタの肩を抱き寄せる偽マルクエン。イチャつく偽物達にラミッタはそれはそれはもう怒り心頭だった。

「やめろって言ってんのよ!!!」

 特大の雷を撃ち下ろすラミッタ。しかし、向こうのラミッタも優秀でそれは見事に防がれる。

 煙の中から偽マルクエンが走り、本物へ斬りかかった。

 その最中、偽物は語りかける。

「お前はまたラミッタを手に掛けるつもりか?」

「!!」

 マルクエンは一瞬で冷水を浴びせられた気分になった。

 そして生まれた心の隙を突くように剣が振り下ろされる。

 しまったと思うと同時に左腕に痛みが走った。深くはないが傷を負ってしまったのだ。

「宿敵!!」

 ラミッタが駆け寄るとマルクエンは苦い顔をしていた。

「私は……」

「しっかりしなさい!! 宿敵!!」

 ラミッタに言われ我に返る。

「お前たちは私達に勝てない」

 偽マルクエンが偽ラミッタを抱き寄せながら言う。

「何故ならば、お前たちには愛のパワーが足りないからだ!!!」

「あーもーいやー!! 何言ってんのよアイツ等!!!」

 そんな事を言いつつも、マルクエンの傷を確認する。

「よかった。深手じゃないみたいね」

「心配してくれるのか? ラミッタ」

 マルクエンに言われ、そっぽを向くラミッタ。

「別にっ!! っていうかアンタまで何言ってんのよ!!!」

 ラミッタは感情がぐるぐるして忙しいみたいだ。だが、落ち着き払ってからボソッと言った。

「それと!! 私はアンタと戦えて良かったと思っているし、悔いは無かったわ」

「ラミッタ!! お前、聞いていたのか……」

「さぁ、やるわよ!!」

 剣先を偽物達に向けてラミッタが言う。マルクエンも自分を奮い立たせて剣を構えた。

「おう!!!」

 その瞬間、マルクエンを青い光が包んだ。

「宿敵、アンタまたそれ……」

「なっ、体が光っている!?」

 どういう事か分からないが、体に力が(みなぎ)るのを感じる。

「大丈夫なのそれ!?」

「何か分からんが、力が溢れてくる!!」

「そう、それじゃ大丈夫ってことね!!」

 二人は見つめ合い、ニヤリと笑った後に走り出し、偽ラミッタに斬りかかった。

 マルクエンの剣が偽ラミッタの防御壁に食い込み始める。

「ラミッタ!!!」

 偽マルクエンが飛びかかるも、ラミッタが牽制を入れ、上手く近付けない。

「はあああ!!!」

 渾身の力を出して、マルクエンは魔法の防御壁を破壊し、偽ラミッタに一太刀浴びせようとした。

 飛び退いて避ける偽ラミッタだったが、一瞬で距離を縮められ、横薙ぎの一撃を食らってしまう。

 体が真っ二つになり、黒い煙になって消えた。

「おのれえぇぇぇぇ!!! よくもラミッタを!!!!」

 偽物のマルクエンが憤怒の表情をして重い一撃を放つ。ラミッタは剣が弾かれて、後ろに一瞬バランスを崩した。

 そんなラミッタの肩をマルクエンが後ろから支える。

「大丈夫か!?」

「えぇ、平気よ」

 場所を交代して前衛をマルクエンが務め、その後ろからラミッタが魔法の牽制を入れた。

 青白く光るマルクエンは偽マルクエンを圧倒している。更に魔法が飛び交っているので、偽物はだいぶ分が悪かった。

「っく!!」

 魔法の雷と風をくらい、切り傷や火傷でボロボロの偽マルクエン。

「そろそろ決着を着けるか」

 マルクエンは重い一撃を偽物に浴びせ、縦に鎧ごと斬り捨てた。

 黒い煙となって消える偽マルクエン。これでどうやら戦いは終わったようだった。

「ふぅ……。とりあえず終わったか」