すっとナイフが通る肉を皆で味わう。脂と赤みのバランスが良く。食べるほどにお腹が空いてきそうだ。

「美味しい、流石はのどかな良い村で育った牛だ」

「うーん、やっぱトーラ牛は最高っスね!!!」

「うん、懐かしい気がするよ。でも私、食べ切れるかな?」

 目の前にはかなり分厚く大きいステーキがある。シヘンは若干不安だった。

「うー、お腹いっぱいッスー」

「うん……。私もいっぱいになっちゃったかも」

 ラミッタはぺろりと、ケイは何とか完食したが、シヘンは少しばかり肉を残してしまう。

「作ってくれた人と牛に申し訳ないなー……」

 悲しそうな表情をするシヘンを見てマルクエンが言った。

「シヘンさん。私はまだ食べられるので、頂いても良いですか?」

 マルクエンが言うと、シヘンは手を前に出して顔を横に振る。

「い、いえいえ!! わ、私の食べ残しなんて汚いですよ!!」

「汚くなどありませんよ。私の食い意地が張っているだけですので」

「そうよ、残飯処理させちゃいなさい」

 結局シヘンの残した肉はマルクエンが食べてしまった。

 しばらくすると、デザートに黒蜜ソースを掛けたバニラアイスがコースの最後を飾る。

「シヘン。これなら食べられるでしょ?」

 ラミッタに言われ、シヘンは下を向いてもじもじとしながら「はい」と返事をする。

「おぉ、それは良かった」

「デザートは別腹ッスからねー」

 4人はそれぞれバニラアイスを口へ運ぶ。

「うん、美味しい!」

 甘い物も好きなマルクエンは味に唸る。

「結構良いわね」

 顔に出さないようにしているが、ラミッタもかなり喜んでいた。

 満腹だったはずのシヘンも、バニラアイスは食べきれたようだ。

「お料理はいかがでしたでしょうか? 竜殺しのパーティの皆様」

 厨房からシェフがやってきて、マルクエン達に挨拶をする。

「こんにちは、お料理ゴチソウサマでした。とても美味しく、楽しませて頂きました」

 マルクエンはにこやかにそう返す。

「いえいえ、お客様達は街の英雄! そして、これからも更にご活躍なさる事でしょう。そんな方々にお食事をおもてなし出来た事を誇りに思います」

「そんな大層な者ではありませんよ」

 しばらく会話をし、マルクエンはウェイターとシェフにチップを渡して、食堂を後にする。


 女子部屋に辿り着いたケイはベッドへとダイブした。

「わ、私もう限界ッスー……」

 疲れと満腹感からか、ケイはもう眠気に負けそうになっている。

「私も、ちょっと休みたいかも……」

「それじゃ、2人は先に休んでいなさい。明日に備えてね?」

 笑顔を作るラミッタを見て2人は恐怖心を覚えたが、今はとにかく寝る事が先決だ。

「私はバーにでも行って飲んでいるわ」

 そう言い残し、部屋の明かりを消してドアを閉めるラミッタ。シヘンとケイはあっという間に眠ってしまった。

 ラミッタがホテルの外へ向かうと、見えたのは女冒険者に囲まれているマルクエンだ。

「竜殺しのマルクエンさんですよね!? すっごーい!!」

「マルクエンさん背も高いし、顔もカッコいいですね!!」

「マルクエンさんって、誰か付き合っている人いるんですかー?」

 当の本人は赤面しながらしどろもどろだった。

「い、いや、あのー、そのー……」

「あら。モテモテで良いご身分ね、宿敵?」

「ら、ラミッタ!! あの、待ち合わせをしていたので、これで……」

 マルクエンは女冒険者達を振り切ってラミッタの元へと行く。

「あらー? 待ち合わせなんてしていたかしら?」

 ラミッタが小声でニヤニヤ見てくると、マルクエンは歩き始める。

「そういう事にしておいてくれ!!」

「それじゃ、バーに行くわよ。アンタの奢りでね」

「わかった。誘ったのはこっちだしな」



 バーに着くと、やはりここの冒険者にも気付かれ、好奇の眼差しを浴びる。

「すっかり注目の的ね」

「あぁ、そうだな」

 (すみ)の2人席に座ると、とりあえず飲み物を注文した。

「人の目に晒されるのは元のせか……。元の国ではよくあったから慣れていたはずなのだが」

「流石は騎士様ね。まぁ、私も士気を上げる為に軍の前で演説とかあったけどさ」

 運ばれてきたビールを手に持って、ラミッタはマルクエンのオレンジジュースに軽くぶつける。

「モテモテ騎士様に乾杯よ」

「ははは……」

 ラミッタはビールを半分ぐらいまで一気に飲むと、マルクエンに尋ねた。

「で、何であんな所に居たわけ?」

「そうだな、少し小腹が空いたので、何か食べようかと思ってな……」

「あんだけ食べておいてまだ食べるの!? 呆れた」

 マルクエンはポテトフライやハンバーガーを注文し、ラミッタもつまみになる軽食を頼んだ。

「所で、アンタ結構可愛い子に逆ナンされてたのに手出さないの?」

 言われ、オレンジジュースで咳き込むマルクエン。

「な、何を言うんだ!!」

「もしかしてだけど、女の子に興味ない感じ?」

「本当に何を言うんだ!?」

 真に受けるマルクエンにラミッタは爆笑していた。

「私は騎士だ。心に決めた人以外とそういった事はしない!!」

「真面目ねぇー」

 ラミッタはまたクイッとビールを飲む。

「まぁ、いいわ。話題を変えましょうか、シヘンとケイの修行。どう思う?」

「ふむ、シヘンさんとケイさんか……」