突然に名を呼ばれたマルクエンは驚きつつも返事をする。

「はい、私はマルクエンですが……」

 メガネの受付嬢は「良かったー」と心の声を漏らしつつも本題に入った。

「勇者マスカル様がお二人を探しています!」

 マスカルの名を聞いて、ラミッタはあからさまに嫌そうな顔をする。

「勇者が……?」

 マルクエンが聞き返すと「はい」っと返事をされた。

「勇者様への連絡はギルドから入れますので、お二人はしばらくこの街でお待ちいただければと」

「なるほど、勇者様直々のお呼び出しとはね」

 ラミッタは片目を閉じてため息を吐く。

「わかりました。しばらくこの街に滞在しましょう」

 マルクエンはそう言葉を返すが、受付嬢はまだ何か用事があるみたいだ。

「そして、お二人……。と、お仲間の方々を竜殺しのパーティと見込んで頼みたいことがあるのですが……」

「そんな大層な者じゃありませんよ」

「いえ、皆さんのお噂はこの街でも流れていますよ!!」

 現に会話を聞いている周りの冒険者から注目を集めていた。

「ジャガのギルドマスターにお会いして頂けませんか?」

 マルクエンはラミッタをちらりと見てから頷く。

「えぇ、わかりました」

 ギルドの応接室でマルクエン達はソファに座る。紅茶に口をつけ、しばらく待っていた。

「お待たせ致しました」

 ノックの音が転がり、初老の男と背の低いドワーフが部屋に入る。

「どうも、皆さん。私はジャガの冒険者ギルドマスターを務めている『バレイ』と申します」

 ギルドマスターのバレイと名乗る男は物腰が柔らかであった。

「おう、あんたらが竜殺しか、俺はジャガの鍛冶屋ギルドマスターの『サツマ』だ」

 ドワーフは気さくな態度で接してくる。

 マルクエン達も立ち上がり、挨拶と握手を交わした。

「それでだ、早速本題に入りてぇんだが、この街の鉱脈に竜が現れてな」

「竜ですか!?」

 マルクエンは驚いて身を乗り出す。

「えぇ、鉱物で身を固めたドラゴンです」

 至って冷静にバレイは語る。そんな彼とは対称的にサツマは熱がこもっていた。

「あの竜のせいで鉱物が取れなくてなぁ、商売上がったりだぜ」

 そう言って紅茶をぐいっと飲み干す。

「討伐隊をBランクの冒険者の集団で送ったのですが、歯も立たずに終わってしまいました」

「そんな竜を私達で倒せるかどうか……」

 マルクエンは少し弱気に言う。

「頼む、それに竜から素材が取れたら最強の剣を作ってやるよ!!」

「最強の……、剣ですか?」

 マルクエンが聞き返すと「あぁ」と言って得意げにサツマが話す。

「俺の先々代の更に先々代と語り継がれているだけどな、鉱脈に現れる竜からは最高の金属が採れる。そいつを使えば絶対に折れない錆びない剣が出来るってよ!!」

「ホントかしら?」

 ラミッタは疑いの目線を向けるが、そんな事は気にしていないようだ。

「そうさ!! 不謹慎かもしれねぇが、俺は竜が現れて感謝もしているんだ。俺の代で最高の剣が作れるかもしれねぇってよ!!」

 ふむ、とマルクエンは顎に右手を当てて考える。

「ラミッタ。どうする?」

「まぁ、勇者を待つ間は暇だし、まずは様子だけでも見てみましょうか。期待はしないで頂きたいけどね」

 二人の返事を聞いてバレイもサツマも顔を明るくした。

 ギルドを出る頃にはすっかり日も沈んでしまった。勇者と竜討伐の件があるので、宿はギルド持ちで用意という高待遇だ。

 この街で一番の宿に、マルクエンの一人部屋とラミッタ達の三人部屋が用意されていた。

 ビュッフェ形式の夕飯を堪能すると、ラミッタの部屋に集まり、今後のことについて話す。

「鉱脈に住む竜か、どんな奴なんだろうな」

 マルクエンがポツリと言った。

「一旦、敵を偵察してみるしか無いわね」

 ラミッタはそう返した後にシヘンとケイの方を見る。

「それで、あなた達はどうするの?」

「わ、私は!! 付いていきます!!」

 シヘンが緊張しながらも返事をした。

 だが、ラミッタは彼女たちを見据えたまま語りかける。

「竜との戦いだわ、あなた達を守りきれないかもしれない。命を落とす可能性もあるわ」

「私はここまで来たんだから付いていくッスよ!!! 魔人と戦っているのに今更ッスよ!!」

「そうね」

 ケイの言葉を聞いてラミッタが、くすりと笑う。

「それじゃ早速だけど、明日になったら偵察に行きましょ。ほら、さっさと出ていきなさい宿敵」

 ラミッタは手でシッシッとマルクエンを部屋から追い払った。



 翌日になり、朝食を済ますと、宿屋の外でラミッタはうーんと背筋を伸ばす。

「それじゃ、ドラゴン見物と行きましょうか」

 マルクエン達は荒れた山を目指して歩き始める。

 二時間ほど歩くと、鉱脈の入り口が見える。

 竜が現れた為に閉鎖されているので、不気味な静けさがあった。

「この中に竜が……」

 マルクエンは思わず息を呑む。

「音消しと暗視の魔法を掛けるわ」

 暗殺に使うための魔法をラミッタは使った。これで気配が消えたマルクエン達は鉱脈のトンネル内へと侵入する。

 中は真っ暗だったが、暗視の魔法のお陰で、昼間のような明るさとまではいかないが、視界にはさほど困らなかった。

「待って、音がする」

 ラミッタは手で仲間を静止する。マルクエンも気配を感じ取っていた。