マルクエンは大剣を振るって、魔物をまとめて斬る。ラミッタは一匹一匹確実に斬り、突き刺し、薙ぎ払う。

 圧倒的な強さで魔物を蹴散らす二人、応援に来た者たちも、その戦いに見惚れながら魔物と対峙した。

 そんな時、ラミッタは遠くからの気配を察知して空を見上げる。

 空を猛スピードで飛んでやって来たのは魔人『クラム』と女らしき奇術師の魔人だった。

 彼等は二人の上で話し合いを始める。

「やはり、転生者相手では、こんなオモチャ遊びにすらならんか」

「もー、せっかくボクが作ったって言うのに酷い言い方!! でもまぁ、確かにちょっと物足りなかったみたいだね」

「貴様達は!!」

 マルクエンは剣を二人に向けて叫んだ。

「降りてきなさい!! メッタ斬りにしてあげるわ」

 ラミッタが言いながら魔法を天空に放つ。

「まー、そう焦んないで」

 奇術師の魔人は分厚い魔法の防御壁で下からの攻撃をすべて防ぐ。

「そうそう、いい加減に自己紹介しておこうか? ボクの名は『ミネス』だよ! よろしくねっ」

 ウィンクをしてそう名乗る奇術師の魔人もとい、ミネス。

「あら、ご丁寧な自己紹介どうも。それじゃ死ね!!」

 ラミッタは風魔法で飛び上がり、剣に炎を纏わせると、赤く光るそれは、元の5倍ほどの長さになる。

 それを防御壁に叩きつけた。壁には大きな亀裂が入る。

「うへぇー、やるー!!」

 ミネスはそんな事を言ってジャグリングを始めた。

「マーダージャグリング!!」

 落下し、地面に戻ってきたラミッタは大声で叫ぶ。

「この前も思ったけど、その技名ダサいわよ!!」

「なっ、キミ、言っちゃいけないこと言ったな!!」

「多少の自覚はあったのか?」

 マルクエンにも言われ、ミネスは顔を赤くする。

「ミネス。ふざけているなら俺が行くぞ」

 魔人クラムが言うとミネスは待っててと制止した。

「今日はコイツだ!!」

 赤い玉を空に放り投げると、それが数百に分裂して地表に火の玉となって降り注ぐ。

「っ!! まずい!! みんな逃げろ!!」

 ちょうどマルクエンが振り返って戦う者たちに叫んだ時、シヘンとケイの姿が目に入った。

 彼女達も戦っていたのだ。まずいとマルクエンはそちらへ走る。

「仕方ないわね、ちょっと疲れるけどやってやるわ!!」

 ラミッタは右手を地面に置いてありったけ魔力を込めた。

 すると、巨大な防御壁が空を飛び、同時に水魔法も発射され、火を防ぎ、撃ち落としていく。

「やっぱやるねー!! ボク達魔王軍に入らない?」

「入るわけないで、しょっ!!」

 そう言葉尻を上げながら、ラミッタは雷の魔法を打ち出した。

 戦う者たちは空を浮かぶ見たこともない防御壁と魔法の応酬(おうしゅう)に唖然としている。

 皆の安全が確保された事を見届け、マルクエンは箱に向かって走った。

 緑色となった箱を斬りつけると、いともあっさり両断できる。

「うへー、壊されちゃったかー」

 ミネスが(おど)けて言うと、クラムが剣を引き抜いた。

「やはり、俺が行くしかないか」

 だが、そんなクラムをミネスは止めた。

「ダメだよー? 魔王様から『戦いは極力避けるように』って言われたじゃん」

「お前の今の魔法は何だ?」

「アレは挨拶だから良いの、それに……」

 ミネスは遠くの火を見てニヤリと笑って続ける。

「目的は達成できたしね」

 視線の先が気になり、ラミッタはチラリと見ると、言葉を失った。

 自分たちの住んでいた家が燃え盛っていたのだ。

 すでに半焼以上しているので、今から消しても遅いだろう。

「なっ、あぁっ!!!」

 ラミッタは一瞬、動揺してそんな声を出すも、すぐに魔人達を睨みつけ、殺意を灯す。

「許さない……」

「んー?」

 ミネスは挑発するかのように耳の裏に手をかざした。

「私の居場所を奪うやつは許さない!!!」

 怒りに任せてラミッタは魔法を打ち込む。

 一見すると、猛攻を仕掛けたように見えるが、マルクエンは分かっていた。

 アレはただ、捨て身になって魔法を乱射しているだけだと。

「ラミッタ、やめろ!! 魔力が持たなくなるぞ!!」

「うるさい!!」

 マルクエンの言葉にも構わずラミッタは攻撃を続けていた。

「まぁまぁ、お詫びに沢山プレゼントをあげるから」

 そう言ってミネスは魔物が出てくる箱を十数個ばら撒いていく。

「やめろ!!」

 マルクエンもそれを見て叫ぶが、相手はニコニコと笑うだけだ。

「それじゃ、またいつか会おうね」

 言い残して魔人達は飛び去っていった。

 その後にも魔法を打ち出し続けるラミッタ。

「ラミッタ、もう届かない!」

 マルクエンはラミッタの近くまで走り、伸ばしている腕を掴んだ。

「離して!! アンタは家が奪われたってのに、悔しくないの!?」

「悔しくない訳はないが……」

 ラミッタの言うことは(もっと)もだったが、それにしても我を忘れるぐらいに怒り狂う彼女を見てマルクエンは少し恐怖した。

 自分と戦っていた時ですら、怒りに身を任せたり、ヤケを起こす人間ではなかったはずなのにと。

「マルクエンさん!! ラミッタさん!!」

 シヘンとケイが走ってこちらへやって来る。

「シヘン、ケイ……」

 ラミッタは短くその名を言うと、少し冷静さを取り戻した。