「それでは、イタダキマス!」

 マルクエンは覚えたての言葉を使い、シヘンの手料理を口へ運んだ。

「うん、やっぱりシヘンさんの料理は美味しい!」

「あっ、えっと、その、ありがとうございます」

 シヘンは照れて、はにかみながら言う。

「いやー、シヘンの料理は美味いッスね」

「ほんと、そうね……」

 ケイとラミッタも夢中で料理を食べていた。

 食事を終えしっかりと「ゴチソウサマ」まで言ってから、マルクエンは紅茶で一息つく。

「この家、シャワーが付いているッスよ!」

 家の中を見回っていたケイが関心していた。

「シャワー? って何ですか?」

 マルクエンが不思議そうに聞くとケイは驚く。

「えっ、マルクエンさんの世界には無かったんスか!?」

「はい、聞いたことがありませんね」

 そんなマルクエンにシヘンが説明を入れる。

「部屋の上からお湯が出てきて体を洗えるんですよ」

「そんな便利なものが!?」

「はい! 水の出る魔石と火の魔石が使われているんですよ」

「魔石をそんな便利に加工して使えるとは……」

 やはりこの世界は、生まれ育った世界よりも文明が進んでいるのかとマルクエンは思う。

「そういや、前の街での宿屋にはシャワー付いていなかったし、街のボロい銭湯行くぐらいッスしたからねー」

「シャワーすら知らないなんて、世間を知らないのね」

 ラミッタは勝ち誇ったように言うが。

「いや、ラミッタもこの世界に来るまで知らなかっただろう」

 マルクエンに指摘され、うっと表情を固まらせる。

「そ、そりゃそうだけど? でも、私ぐらいになると自分で水ぐらい出して体洗えるし?」

 よく分からない張り合いをするラミッタを「そうかそうか」とマルクエンは軽くなだめたが、余計に(しゃく)(さわ)ったらしい。

「何よド変態卑猥野郎!」

「今の会話に変態要素あったか!?」

 ハハハとシヘンとケイは笑ってやり取りを見ていた。

「私は後から入るんで、お先どうぞーッス」

「それじゃ私は入らせてもらうわ」

 そう言ってラミッタは浴室へと向かっていく。

「マルクエンさん、良かったら後でシャワーの使い方をご説明しましょうか?」

「シヘンさん、助かります」




 しばらくしてラミッタが浴室から出てきた。顔は火照り、長めの茶髪は水で濡れている。

「はぁー、スッキリしたわ」

「私はマルクエンさんにシャワーの使い方を教えるから、ケイ先に入っていていいよ」

「おっ、それじゃお言葉に甘えて」

 ケイもシャワーが済むと、シヘンが「付いてきて下さい」と浴室へ入っていく。

「使い方は簡単なんですよ。こっちを(ひね)ると温度の調節、そしてこっちを捻るとお湯が出ます」

「えーっと、こうですか?」

 加減が分からないマルクエンはレバーを思いっきり回してしまった。

 一気に出るシャワーのお湯がシヘンを襲う。

「きゃっ!!」

「あ、あぁ!! すまないシヘンさん!!」

 慌ててマルクエンはレバーを戻す。

 シヘンは魔術師の白い服を着ていたので、濡れて透けてしまった。

「いえ、大丈夫です」

 そう言ってこちらを振り向くシヘン。次の瞬間、マルクエンは驚愕する。

 透けた服の向こう側に、シヘンの下着が見えてしまっていた。

「あっ」

 それに気付いたシヘンは顔を赤くしてしばらく硬直していたが。

「キャー!!」

 叫んで胸元を隠し、うずくまるシヘン。騒ぎを聞きつけてラミッタとケイがやって来た。

「どうしたの!?」

「大変だ!! シヘンさんが濡れてしまった!!」

「濡れてしまった!? 何やってんのよド変態卑猥野郎!!」

 浴室に飛び込むラミッタ。全身ずぶ濡れで服が透け、しゃがみ込んでいるシヘンが目に入る。

「アンタ!! 本当に何してるのよド変態卑猥野郎!!」

「す、すまない!!」

「良いから出ていけ!!」

 ラミッタはマルクエンを浴室から追い出した。

 そのままの流れでシヘンはシャワーを浴びて出てくる。

「シヘンさん! 申し訳なかった!!」

「い、いえ、大丈夫ですから……」

 何となく会話がぎこちない。最後にマルクエンが浴室へと消えていった。

 天井からお湯が降ってくるのは初めての体験だったが、中々心地よいものだった。

 石鹸を使い、体の隅々まで洗い、タオルでよく拭いてから浴室を後にする。



「初めてのシャワーはどうだったッスか?」

「えぇ、不思議な感覚でしたが、スッキリしますね」

 ケイの質問にマルクエンはそう答えた。

 その後、四人はソファーや椅子に座り、くつろぐ。ケイとラミッタは酒を飲んでいた。

 魔石を照明に使っているので、夜なのに部屋の中は昼のような明るさだ。

「この家、必要最低限の家具は確かにあるけど、もっとお皿とかコップが欲しいわね」

「そうですねー」

 ラミッタの言葉にシヘンも相槌を打つ。

「明日、あのふざけた箱を調べて、その後に買い物でもしようかしら」

 この家は、元々冒険者ギルドで使われていた物らしく、家自体は立派だが、街外れに建っていた。

 だが、魔人の残した箱に近いので、いつでも異変があれば駆けつけられる。

「そうだな、私はそろそろ休もうと思う」

「おやすみなさい、マルクエンさん」

「おやすみッスー!」

「おこちゃまは夜更かししないで寝てなさい」

 それぞれの返事を受けると、マルクエンは「おやすみなさい」と返して二階へ上がっていった。