「あ、あの、変じゃありませんか?」

「いえ、とてもお似合いですよ」

 マルクエンが真顔で言うもので、シヘンは思わず恥ずかしくなり、視線を逸らす。

「後は宿敵の服ね」

 ラミッタに連れられ、マルクエン達は街なかを歩く。

「おっ、これ良いんじゃないか?」

 足を止めるマルクエンはと、ある店のガラスケースを見ていた。シヘンはその先にある物を見て思わず笑う。

「ふふっ、マルクエンさんも冗談をいうのですね」

 そこには金ピカのスーツがあった。

「本気なの宿敵?」

 思わず引いてラミッタは言う。

「え、良いじゃないか。金ピカでカッコいいぞ」

 マルクエンさん本気だったんだとシヘンも笑うのをやめた。

「あー、なんつーか……。マルクエンさんのセンスって独特っスね」

 ケイも最大限オブラートに包んで言ってみる。ラミッタは小馬鹿にした顔でマルクエンに言った。

「宿敵、あなたは今までの人生どうやって服を選んできたのかしら?」

「うむ、小さい頃は使用人が、国に仕えてからは城のメイドさんが選んでくれていた」

 マルクエンの言葉にラミッタは呆れる。

「これだからボンボンのお坊ちゃまは」

「よく居るっスよね、異性の服はちゃんと選べるのに、自分のとなると急にダメになる人……」

 女性陣からダメ出しをされてマルクエンは衝撃を受けていた。

「だ、ダメなのか!? こんなに金ピカなのに!?」

「金ピカから離れろ!!」

 店の前から離れていくラミッタの後を渋々マルクエンは追いかける。

「まぁ、適当にこの店で良いわね」

 適当と言う割には皆を連れ回していたラミッタだが、その店の中に入ってみた。

「中々オシャレな店ッスねー」

「そうでしょ? 私が選んだんだから!」

「マルクエンさんの為に?」

 ケイに言われ、ラミッタは赤面する。

「別にっ! 一緒にいる奴がダッサイ格好されたら嫌なだけ!!」

 女子組はマルクエンを放っておいて、アレが良いコッチが良いと服を選んでいた。当の本人は退屈そうだ。

「それじゃ、これを試着してきて」

「えっ? どうせ着るならこのまま買ったら良いんじゃないのか?」

「絶対ダメ、服は試着して買うの!!」

 そういうものなのかとマルクエンは試着室へと消えた。

 しばらくして出てきたのは、茶色のズボンと白いワイシャツ、暗めのグレーのジャケットにループタイを付けたマルクエンだ。

「おー、マルクエンさんかっけーッスよ!!」

「馬子にも衣装って奴かしら」

「お似合いですよマルクエンさん」

 そう言われ、マルクエンは思わず照れていた。

「そ、そうか?」

「それじゃ買って帰りましょう」

 ラミッタに言われるがまま購入し、一行は宿へ帰る。


 十九時より手前の時間。マルクエン達は宿を出た。

「勇者様とお食事会。何か良いことあるといいっスねー」

「あんなヘラヘラした奴が勇者だとは思えないけど」

 悪態を付くラミッタをケイは、まぁまぁとなだめる。

「一つ疑問なのですが、この国で勇者になるにはどうしたら良いのですか?」

 マルクエンの疑問にケイが答えてくれた。

「冒険者として高ランクのクエストをこなしまくると、お声が掛かるんですよ。それで面接と試験に合格すると晴れて勇者っスね」

「なるほど……」

「後は、軍隊で優れた人が選抜される事もあるみたいですよ」

 シヘンが補足をしてくれた。どのみち勇者は凄い人材なのだろうとマルクエンは考える。

「おっ、着いたっスよ」

 勇者との待ち合わせをしていた料理店までやって来た一行。店の前に立っていると、ボーイがこちらに気付いてやって来る。

「いらっしゃいませ」

「えっと、予約していた勇者マスカルさんと一緒に食事を誘われた者っス」

 ケイが言うと、ボーイは目を丸くして礼をした。

「お待ちしておりました。お席までご案内いたします」

 きらびやかな店内の、奥の席へとマルクエン達は案内された。勇者はまだ来ていないみたいだ。

「人を誘っておいて、遅れてくるなんて、いい性格してるわね」

「まぁまぁ、ラミッタ。私達が早く来ているだけだ」

 ムスッとしているラミッタをマルクエンは宥める。

 数分もしない内に勇者達はやって来た。

「お待たせして申し訳ない。皆さんこんばんは」

 爽やかな笑顔で勇者マスカルが登場する。私服の青いワンピースを着ているラミッタに思わず目が行っていた。

 全員が席に座ると、軽いつまみと食前酒のワインが運ばれてきた。

「あー、申し訳ない。私は酒が飲めなくて……」

 マルクエンだけぶどうジュースに取り替えられ「おこちゃま」とラミッタが悪態をつく。

「それでは、出会いに乾杯!!」

 マスカルが乾杯と言い、皆でグラスを上に掲げた。

「自己紹介といきましょうか。私はマスカル。勇者を務めさせて頂いております」

「剣士のゴーダです」

 短く挨拶をするゴーダという男。勇者とは対照的に口数が少ない寡黙な感じだが、体つきを見るに強い戦士なのだろう。

「魔道士のアレラです。皆様よろしくお願いします」

 魔法使いの上級クラスである魔道士を名乗る女、アレラはそう言って軽く会釈をした。二人共マルクエン達より少し年上だ。

「それでは、マルクエンと申します。初心者の冒険者です」

「えっと、じゃあ私も……。シヘンです」

「ケイっす。剣士やってます!!」

 マルクエン達は挨拶をしたが、ラミッタは興味無さそうにワインを飲んでいた。

「ラミッタ、挨拶をだな……」

 催促され、やっと自己紹介を始める。

「ラミッタです。魔剣士をやっています」

 棒読みに近いぐらい感情がこもっていなかった。

「ラミッタさん……。やはり可憐な名前だ」

 マスカルはうっとりとして言う。ラミッタは引いていた。

「皆さんは冒険者になられてどのぐらいでしょう?」

 そう魔道士のアレラが尋ねてくる。

「私は1年ぐらいです」

 シヘンはおずおずと言う。それとは対称的にケイは元気よく答えた。

「1年半ぐらいっス! それなのに勇者様達とお食事が出来て光栄ッス!!!」

 ゴマをするケイ、マルクエンはえーっと、と言った後に話し始める。

「私は冒険者にはなりたてでして」

「そうなのですか? それにしてはお強い様に見えますが」

 剣士のゴーダは、マルクエンの体格と動きを見て只者ではないと直感で感じ取っていた。

「えーっと、遠い国で騎士をやっていまして」

「なるほど、そうでしたか」

 ゴーダはそれを聞いて納得する。マスカルは男のことなんてどうでも良いと思っていたが。

「私は2ヶ月ぐらいです」

 興味なさそうにラミッタが言う。すかさずマスカルはそれに食いついた。

「2ヶ月ですか!? うんうん、冒険者として楽しい時期ですね」

 マスカルは一人頷く。その後、気になっていた事を聞いた。

「それで、皆さんはどういった経緯でパーティを組まれているのでしょうか?」

「えっと、マルクエンさんとラミッタさんの旅に私達は付いていくことにして、それでパーティを組んでいます」

 無口なラミッタの代わりにシヘンが答える。マスカルは天使とこの冴えない男が一緒に旅をしていると聞いてガックリとしていた。

「ラミッタさんと……、マルクエンさんはどういったご関係で?」

「ただの腐れ縁です」

 ラミッタはそっぽを向いて答える。今日はこれ以上に話をしても無理かと悟ったマスカルは笑顔を崩さずに当たり障り無い会話をした。

 その後は、運ばれた料理を堪能し、食事会は解散となる。

「こちらからお誘いしたので、ここはご馳走させて下さい」

「いえ、そういう訳には……」

 マスカルの提案にマルクエン達は遠慮をするが、押し切られる形で夕飯を奢って貰った。