別の形で会い直した宿敵が結婚を迫って来たんだが

 レモーヌが勇者様だとマルクエンとラミッタを紹介すると、宿屋のおかみは笑う。

「何言ってんだい! 勇者様がこんなボロ宿に来るわけ……」

 いつものように、ラミッタが宙へ浮かんで見せて、マルクエンも勇者の証明書を出す。

 おかみは目を丸くして、あわあわとし出した。

「ひ、人が空を!? こ、これは失礼しました勇者様!! おーい、アンター!! 凄いお客さんだよー!!!」

 呼ばれて何の騒ぎだとやって来た宿屋の主人は、宙を浮かぶラミッタを見て腰を抜かす。

「ゆ、勇者様!?」

 マルクエンは気まずくハハハと小さく笑った。宿屋の主人は立ち上がって小走りでマルクエン達の元へとやって来た。

「こ、これはこれは、勇者様!! お目にかかれて光栄です!!」

 マルクエンは照れながらも、要件を伝える。

「いえ、それでこちらの宿に当面の間お世話になりたいのですが……」

 その言葉に、宿屋の主人は大慌てした。

「ゆ、勇者様がウチに!? で、ですが、こんな宿では勇者様に申し訳が……」

「いえ、立派な宿ですよ」

 マルクエンが、ほがらかに笑って言うと、宿屋の主人は涙を流しそうになる。

「お、おっかぁ、勇者様がウチの宿を立派だって……、宿屋やっていて良かった!!」

「そうだね、アンタ!!」

 そんな二人を見てレモーヌは苦笑いをしながら言った。

「あ、あのー。勇者様のお部屋は……」

 我に返った主人がマルクエンを見る。

「そうでした!! ようこそいらっしゃいました!! こんな宿ですがお部屋にご案内いたします」

 案内された部屋のドアを開けると、二人分のベッドが置かれた、こぢんまりとした部屋だった。

「こちらのお部屋なんていかがでしょう? あ、それとも、お一人ずつのお部屋の方が……」

 主人の言葉にラミッタは短く返した。

「別に、私はここでいいです」

 マルクエンはそれに驚く。てっきりラミッタは別々の部屋が良いと言うかと思っていたからだ。

「それでしたら、ごゆっくりとおくつろぎください」

 主人は深々と礼をして去っていった。

 部屋のドアを閉めて、マルクエンはラミッタと二人っきりになる。

「ラミッタ、意外だな。私と同じ部屋で良いだなんて」

「別に、今更でしょ」

 そう言ってラミッタは荷物を置いてベッドに座る。

「私はまた、てっきり『ド変態卑猥野郎』と言われるものだと思っていた」

「言わないけど思ってはいるわ」

「酷いな!?」

 ショックを受けるマルクエンを見て笑うラミッタ。

「はー、アンタと居ると飽きないわ」

 マルクエンとラミッタは重い武器と防具を外して、やっとの解放感を感じる。

 ラミッタは背中からベッドに倒れて目を閉じていた。

「はー、もう疲れたわ」

 マルクエンも器用に鎧を外してベッドに横たわる。

「私も、疲れたな。だが、腹も減った」

「アンタいつもお腹空かせているわね。まぁいいわ。近くにご飯屋さんが無いか聞いてみようかしら」

 体を起こし、靴を履いてラミッタは部屋を出ようとする。

 その後ろをマルクエンも追いかけた。

 先に出ていたラミッタは宿屋のおかみと話をしている。

「食堂でしたら、ちょうど向かって斜め右二軒先にあります」

「だって、宿敵」

 後ろを振り返ったラミッタはマルクエンに言う。

「そうか、念のため、一度部屋に戻って武器を……」

「おおげさね。近くだし、魔人の襲撃が来ても大丈夫でしょ」

「……、それもそうだな」

 マルクエンはラミッタの言う通り、武器を置いて宿屋を後にした。

 本当に目と鼻の先にあった食堂に二人は入る。

「いらっしゃいませー!」

 店員に席に案内され、二人はメニューを見た。

「なにこれ? な、なそてこ?」

『なそてこのパスタ』やら『なそてこのシチュー』といった、聞き覚えの無い単語を見て顔を見つめ合わせる二人。

 マルクエンは考えていても仕方が無いので、店員に尋ねる事にした。

「ちょっと聞いてみるか、すみませーん!」

「はーい、お決まりですか?」

「この『なそてこ』って何ですか?」

 聞かれ、店員はニコッと笑って答える。

「はい! 『なそてこ』はこの街の名産のナスの一種で、笑った顔みたいな模様が浮かんでいるのが特徴ですよ」

 ますます分からなくなる二人。

「ちょっと待ってくださいね!」

 そう言って厨房に消えた店員は、手のひらサイズのナスを持ってきた。

「こちらです!」

 そのナスを見てマルクエンは驚く。

「ほ、本当だ……。何か笑ったような模様が……」

 ナスの身の部分には目と口を閉じて笑顔を作ったときのような黒い模様が浮かんでいた。

 ラミッタはそれを見て食欲をなくす。

「何か不気味ね……」

「そうか? かわいいじゃないか!」

「アンタ正気!?」

 ラミッタはジト目で見ていたが、店員はマルクエンの言葉に機嫌をよくした。

「なそてこの可愛さが分かるとは、お客さんわかっていますね! あぁ、もちろん食べても絶品ですよ!」

「それじゃ、なそてこのオススメ料理で!」

 マルクエンはいつになくノリノリだ。

「おススメですね! なそてこのシチューランチです! 牛肉となそてこ、その他野菜を煮込んだシチューです!」

「それじゃ、それを二つ!」

「ちょっと! 何で私の分まで勝手に決めてんのよ!?」

 ラミッタは怒りよりも、普段と違うマルクエンに困惑していた。

「食べず嫌いはダメなんじゃなかったのか?」

「いや、そうだけど……」

 ラミッタは下を向いてもじもじとする。

「もしかして、怖いのか? なそてこ」

「こ、怖いわけないじゃない! 食べるわよ!!」

「それじゃなそてこのシチューランチ二つですねー!」

 ラミッタは意地を張った事を少し後悔しつつも、冷静さを見せて料理を待つ。