別の形で会い直した宿敵が結婚を迫って来たんだが

 日が暮れる前にテントの設営が終わり、快晴のまま日が沈むのをぼんやりレモーヌは眺めていた。

 隣に居るスパチーに何気ない質問を投げかけてみる。

「夕日が沈んで、赤くなってるよ。綺麗だと思う?」

「うーん。綺麗かもしれないぞ!」

 魔人ではあるが、人と同じ感性もあるのかなと、ちょっぴりレモーヌは思った。



「さぁ、勇者様!! 焼肉パーティですよ!」

 昼間のうちに作っておいた簡易コンロの上に網を置いて、焼肉パーティが始まる。

「勇者様達にって奮発してもらったんで!」

 レモーヌは冷凍魔法で凍らせておいた新鮮な肉を網の上に乗せ始めた。

「やった! 肉だぞ肉!!!」

 スパチーは笑顔ではしゃいでいる。ルサークとデルタも目の前の上等な肉によだれが垂れそうだった。

 はしゃぐスパチーを見てラミッタはニッと笑いながら言う。

「誰がアンタにあげるって言ったかしら?」

 その言葉を聞いて愕然とするスパチー。

「なっ!! なんでだ!?」

「ラミッタ、そう意地悪を言うな」

 マルクエンは笑いながら、トングで肉をひっくり返していた。

 肉の焼ける良い匂いが辺りに立ち込め、マルクエンとレモーヌは一人一人の皿に肉を取り分ける。

「わーい! 肉だー」

 スパチーは喜んで食べ始めたが、皿を差し出されたデルタは戸惑う。

「ほ、本当に私達も食べて良いのですか?」

「えぇ、もちろん。肉が焦げてしまうので遠慮なく、どんどん食べて下さい」

「あ、ありがとうございます! 勇者様!!」

 ルサークとデルタも肉汁したたる上質な肉を食べ、旨味に感動していた。

「宿敵、じゃんじゃん焼きなさい」

 ふーふーとよく冷ましながらラミッタは肉を(かじ)っている。

 そうだと思い出してレモーヌはコップと瓶を取り出した。

「お酒もありますよー」

 レモーヌは、なみなみと注いだビールをラミッタに渡す。

「あら。気が利くじゃない」

「どうもっす!」

「ちなみに、宿敵はおこちゃまだから酒飲めないわよ」

「えぇー!? そうなんすか!?」

 マルクエンは驚いてこちらを見つめるレモーヌに「ははは」と苦笑いした。

「でもまぁ、ジュースもあるんで、マルクエンさんとスパチーちゃんはそれで!」

「助かります」

「ジュース! 飲むぞ!」

 二人には果実のジュースを渡し、ルサークとデルタに近づく。

「お二人とも、ビールいかがっすか?」

 その誘いにルサークは首を横に振った。

「さ、さすがに酒までは……」

 そこにマルクエンが割り入る。

「いいじゃないですか、飲みましょうよ」

 思わずラミッタがツッコミを入れた。

「飲みましょうよって、アンタ飲めないじゃない」

 そして、ラミッタとマルクエンは二人で笑う。

 レモーヌもクスクスと笑い、ルサークとデルタに酒を渡す。

「まぁまぁ、勇者様もそう言っている事ですし」

 宴も終わり、たらふく食べて寝てしまったスパチーはテントに放り込まれ、それ以外の者は焚火の前で簡易椅子に座っていた。

「勇者様、なぜ罪人の私達にここまで良くしてくれるのですか?」

 ルサークの問いに、マルクエンは答える。

「罪人だとしても、罰を与えるのは国の仕事です。私達はあなた達を不当に苦しめたり、責めたり、そんな事はしたくないのです」

「勇者様……」

 ラミッタも片目を閉じて二人に質問した。

「聞かないでいたけどさ、アンタら私達の名を語る以外に何をしたのよ」

 その質問に二人とも黙りこくってしまう。

「原因は……、その……、私なんです」

 初めに口を開いたのは女魔剣士のデルタだ。

 その言葉を、ルサークは慌てて遮る。

「違う!! 俺が勝手にやった事だ!!」

 そして、深呼吸してから勇者たちに事情を打ち明け始めた。

「その、俺とデルタ、あと数人で冒険者のパーティを組んでいたんです」

 そこまではよくある話だ。皆が黙ってルサークの言葉を聞く。

「ある日、デルタの体調がおかしいと思ったら、不治の病に(かか)っておりまして」

「デルタが動けない。うつる病気じゃないのに、病気がうつると言って色々な理由を付け、パーティメンバーは去っていきました」

 苦々(にがにが)しそうに記憶を呼び出して語るルサーク。

「デルタの病気を治すには莫大な金を出して手に入る秘薬しかありませんでした。症状を緩和させる薬は買えたのですが、薬屋はそれでは治らないと……」

 皆が真剣にルサークの言葉に耳を傾けている。彼もまた、前を向いて続きを話す。

「金を貯めようにも、俺が十年働いて買えるぐらいの代物で、そんな金を貸してくれる人もおらず、このままではデルタの命が尽きてしまう」

「そこで……。偶然にも秘薬を持つ商人の護衛をする依頼がありました。俺は許されないと知りながらも、どさくさに紛れて秘薬を盗み、デルタに……」

 事の経緯を聞いたマルクエン達。最初に言葉を返したのはラミッタだった。

「なるほど、そりゃ重罪ね。立場を利用して盗みを働き、ギルドの信用を(おとし)めて。確かに何処か遠くの地へ逃げるほかないわね」

 ラミッタの言葉にルサークはうなずく。

「ギルドは落とし前を付けるために血眼になって俺達を探している事でしょう」

 そこでルサークは突如地面に座り、土下座する。

「お願いです!! 勇者様!! 今回の事は全て俺の独断で、俺に罪があります!! デルタは……、デルタだけは助けて下さい!!」

「ルサークやめて!! 元はと言えば私のせいで!!!」

 沈黙。静かに過ぎる時が、ルサークには永遠の様に感じられた。

 マルクエンがそんな彼に向かい、話し始める。

「顔をあげて下さい。ルサークさん。あなたのしたことは、ギルドを騙し、一般市民を騙し、到底許される事じゃない」

 厳しい言葉にレモーヌは何か言いたげだったが、声は出ずにいた。

「勇者として見過ごすわけにはいかない。いかないが。一人の人間として、言うならば……」

 そこでルサークは顔を上げる。マルクエンは彼の目をじっと見て言う。

「その選択。とても好感が持てます」

 ルサークは目から涙がこぼれた。デルタ以外の人間に初めて己の過ちを打ち明け、一人の人間としてならばと肯定された。

「私も、罪は償ってもらうけど、口添えぐらいはしてあげてもいいわ」

 ラミッタは髪の毛先をくるくるいじりながらそう言う。

「マルクエン様!!! ラミッタ様!!!」

 レモーヌもふぅーっと息を吐いてから言葉を出す。

「いけない事かもしれないっスけど、でも、やっぱ優しいんスね」

 気付けば、ルサークは声を出して泣いていた。