別の形で会い直した宿敵が結婚を迫って来たんだが

 スナドリの街が小さく見えるぐらいの場所。そこでマルクエンは馬の世話をしていた。

 そこに、ラミッタが空を飛び、戻ってくる。

「おかえり、ラミッタ」

「えぇ、ただいま」

 短く言葉を返して、ラミッタは偽物勇者のルサークとデルタに告げた。

「アンタ達の処分は国に任せるわ。それとちっこい魔人もね」

 スパチーは「ちっこい」と言われながら指をさされ、金髪のツインテールをブンブン振って怒り出す。

「誰がちっこい魔人だ!!!」

「はいはい。あと追加の封印ね」

 ラミッタは面倒くさそうに、スパチーに封印魔法をまた掛けた。

「うぅぅ、ルサーク! これやだぞ!! 体が変になる!!」

 ルサークに泣きついたが、はぁっとため息をつかれ、(たしな)められる。

「スパチー、我慢しろ。殺されないだけありがたく思え」

 むううっと、むくれたスパチーはラミッタを指さす。

「私、コイツ嫌いだ!!!」

「はいはい。私もアンタみたいなクソガキ大っ嫌いよ」

「あー!! クソガキって言った!!! クソガキじゃない!!!!」

 ルサークとデルタは肝を冷やしていたが、マルクエンはクスクスと笑っていた。



 しばらく大人しくしていたスパチーだったが、またぐずり始める。

「ルサーク!! デルタ!! 腹減ったぞ!!」

 ルサークは「勘弁してくれ」とばかりに頭を抱えた。

「あーもう! 静かにしていろ!」

 マルクエン達の元へ戻ってきた巻き込まれ冒険者のレモーヌも食事の用意をしながら(なだ)める。

「スパチーちゃん。もうちょーっと待っててね! 成長期なんすかねぇ」

 そんな気の抜けた言葉に、ラミッタははぁっとため息をつく。

「魔人に成長期も何も無いわよ……」

「そ、それもそうっすね!!」

 レモーヌは未だに緊張が解けていないが、無理もない。

 勇者様二人と、魔人が居るのだ。何が起こるかも分からない。

「あー。そろそろご飯のご用意が出来ますので」

「飯か!! やったぞ!!」



 食事を摂って落ち着くかと思ったスパチーであったが、またぐずり始めた。

「ルサーク、デルタ、暇だぞー」

 そんな能天気さが少し羨ましいが、ルサークは短く返す。

「うるさい」

「やーだー!! 暇だ暇だ暇だぞー!!!」

 見かねたレモーヌがしゃがんでスパチーに言った。

「何かして遊ぼうか?」

 すると目をキラキラ輝かせて返事をする。

「遊ぶぞ!!」

「いつもは何をして遊んでいるのかな?」

「家ぶっ壊し遊びに、山削りに、人間ボコボコ……」

 楽しそうに言うスパチーを見て、幼く見えるが魔人なんだなと再認識したレモーヌ。

「うんうん、全部ダメだねそれ」

「何でダメなんだ!?」

 スパチーは全然分からないと疑問を皆にぶつける。

 ルサークが苦笑いをしながらそれに答えた。

「お前も家をぶっ壊されたら嫌だろ?」

「私、家ないぞ!」

 スパチーの発言に、言葉が詰まるルサーク。

「そ、そうか……」

「山もぶっ壊しても良いだろ!?」

 今度は何と言おうかルサークは考えた。

「山は、動物が死ぬかもしれないし、山が燃えたら困る人もいる」

「動物が死ぬのは楽しいぞ!」

 魔人は決定的に価値観が違うのかと、もう諦めかける。

「お前だって痛いのは嫌だろ? 人間も痛いのは嫌なんだ」

「私は痛いのはいやだぞ! でも、人間ボコボコにすると楽しいぞ!」

「それで、ボコボコにされた人は嫌な気持ちになるんだ」

 うーんとスパチーは考えた。

「でも、人間も人間同士でボコボコにして殺し合うぞ!」

 その言葉にマルクエンはドキリとし、ラミッタもピクリと反応した。

「人間は……。本当は殺し合いをしたくないんだ。だが、どうしてもしなくちゃいけない時があってだな……」

「何でしたくない事をするんだ? 人間は馬鹿なのか!?」

 ルサークが返答に困っていると、代わりにラミッタが答える。

「そいつの言う通り、人間は馬鹿よ」

 自分の言っていた事が当っていて、エッヘンと胸を張るスパチー。

「ほら、人間は馬鹿だ!!」

 ラミッタは、そんなスパチーに続けて言った。

「だけど、殺されたくなければ殺さない事ね。人を殺した者は殺されるのよ」

「意味が分からないぞ!!」

 頭が混乱しているスパチーにラミッタは(さと)す。

「あのね、大切な人を殺されたら、その犯人を殺しに行くの。それで殺し合いが始まっちゃうのよ」

「楽しいじゃないか!!」

 スパチーの言葉に、ラミッタは片目を閉じてため息を吐く。

「ダメね。魔人と人じゃ、価値観も考え方も違いすぎるみたいだわ」

 そうだと、レモーヌがしゃがみ込んでスパチーに話しかけた。

「そうだ、スパチーちゃん。飴でも作ろうか?」

「飴、食べるぞ!!」

 レモーヌは小さな鍋に水と砂糖を入れて、火にかけた。

「なんだこれ!?」

「スパチーちゃん。これをかき混ぜてね?」

「分かったぞ!」

 ぐるぐるとかき混ぜる砂糖水は、やがて粘性を帯びてくる。

「そろそろ良いかな? それじゃこれをまな板の上に流して……」

「甘い匂いがするぞ!!!」

 大興奮のスパチーは目を輝かせてそれを見つめていた。

 飴が冷えると、小さく割ってスパチーに渡すレモーヌ。

「さぁ、召し上がれ」

 スパチーはその欠片を口に入れると、幸せそうな笑顔を浮かべる。

「うまいぞー!!」

「そう、それは良かった。皆さんもどうぞ」

 皆で甘い飴を堪能して、その場はいったん収まった。