別の形で会い直した宿敵が結婚を迫って来たんだが

 しゅんとするマルクエンの代わりにリッチェが口を開いた。

「スフィン将軍って、聖女様の事ですかい?」

 その言葉に、マルクエンは短く答える。

「えぇ、そうです」

「シヘンさんの事、あっしに任せちゃくれませんか?」

 自身の胸をトンと叩いてリッチェが言う。

「なに、王都までの護衛ならお安い御用でさぁ」

「わ、私もシヘンを守るッス!!」

 ラミッタは片目を閉じて、ふぅっと息を吐いた。

「二人を信じましょう。きっと、いや、必ず大丈夫よ」

「……。あぁ、シヘンさんをよろしくお願いいたします」

 マルクエンはリッチェに頭を下げて頼んだ。

「勇者様の頼みとあっちゃ、絶対に成し遂げるしかありやせんね! っと、言いたい所ですが、マルクエンの旦那にも少しお願い事がありやしてね」

「お願い事、ですか?」

 マルクエンが聞き返すと、リッチェは話し続ける。

「えぇ、あっしはゴメス町長との取引でこの街を勝手に離れるわけにはいかないんでさぁ」

「そういう事ですか、ゴメス町長さんにお願いをしてみましょう」

 マルクエンはシヘンをチラリと見た後に、歩き出す。ラミッタとリッチェもその後を付いて行く。

 どうしようかとケイは戸惑っていたが、ラミッタがそれに気付き、言う。

「ケイ、あなたはシヘンの(そば)に居てあげなさい」

「あ、は、はいッス!!」




「ゴメス町長にお話があります」

「あ! 勇者様!! 私達もお探ししておりました!!」

 受付嬢に言われ、その声を聞いたゴメス町長が扉を開けてやって来た。

「勇者様!! お探ししていましたよ!!」

 そう言われ、マルクエンはバツが悪そうに一瞬下を向く。

「申し訳ありません。かつての仲間が大怪我をし、つい様子を伺いに……」

「いえ、そうでしたか……」

 マルクエン達は会議室でゴメス町長と議員に今までの出来事を話す。

「なるほど、それでリッチェを王都へと」

 マルクエンは深々と頭を下げて言う。

「お願い致します!!」

「勇者様、頭をお上げください。結論から申し上げますと、勇者様のお仲間といえど、一人の為にリッチェが街から離れる許可は出せません」

 その言葉を聞いて、ラミッタが少し動揺し、身を乗り出す。

「そんな!!」

「リッチェは立場が難しいのです。大泥棒の一族の末裔。その罪を償うため、街のため働くという立場でございます」

 ゴメス町長の言葉に、リッチェは気まずそうに言う。

「そうなんでさぁ、あっしは」

「ですが……」

 ゴメス町長が再び口を開き、全員の注目が集まる。

「町の重傷者を王都へ向かわせるという口実ならば」

 マルクエンはハッとし、同時にシヘンの事だけを考えていた自分を恥じた。

「そうでした。勇者として人々の事を考えず、恥ずかしいばかりです」

「ともかく、重傷者を集めて出発ってわけですね。任せてくだせぇ、あっしはゴメス町長に恥かかすことも、マルクエンの旦那とラミッタさんを悲しませることも誓ってしやせん」

 リッチェの言葉にゴメス町長は静かに頷く。

「あぁ、頼んだぞ」




 街の出口には重傷者たちを乗せた馬車が用意された。

 重症と判断されたのはシヘンを含めた十二名。

 医者も同行し、リッチェとシヘン。その他、冒険者も同行し、魔物や盗賊から護衛をする。

 マルクエンとラミッタは出発する皆に声を掛けた。

「それでは頼みました。リッチェさん、ケイさん。冒険者と医者の皆さん!!!」

「お願いするわ」

「任せてくだせぇ!!」

 リッチェが手を軽く上げてそのまま馬車は出発する。



 マルクエン達がロットオセの街で待機をする中。遠くの地を目指して歩く偽物勇者達、ルサークとデルタ。

 その二人を付け狙う影があった。

「くくく、今日こそゆーしゃをぶちころしてやるぞ!!!」

 幼女の魔人、スパチーだ。肩まで伸びる金髪を左右で結ってふわふわと空を飛んでいる。

 そんな事を知らずに、ルサークは森の中でふうっと腰を下ろした。

「今日はここで休憩をするか」

「えぇ、そうね」

 二人は火を焚いて料理の準備をする。

「だいぶ遠くまで来たな」

「そうね……」

 短く言葉を交わしながら二人は食材を鍋に入れ込む。

 辺りに美味しそうな匂いが漂い、それを食器に移した頃。

「はーっはっはっは!! ゆーしゃよ!! きさま達はここで終わりだ!!!」

 不意にスパチーが空から降りてきてルサークとデルタは驚いて剣を抜く。

「なっ、お前は魔人の幼女!?」

 ルサークが言うと、スパチーは何だか声に元気が無くなっていく。

「きさま達をぶちころしに来た……ぞ……」

「なっ!! ど、どっかいけ!! このミラクルスーパーハイパーメッチャ痛いパンチを食らいたいのか!?」

 ルサークは続けてハッタリをかますも、スパチーはどこか様子がおかしい。うずくまって大人しくしている。

「ど、どうしたってんだ!?」

「何か変よアイツ」

 剣先をスパチーから逸らさずにゆっくりと、一歩一歩近付くルサークとデルタ。

「も、もう。は、腹が減ったぞ……」

 その言葉に二人は拍子抜けした。

「は、腹ァ!?」

「おい、ゆーしゃ!! その食べ物を寄こせ!!」

 二人を見て残りの力を振り絞り、スパチーは叫ぶ。

「ルサーク!! 何か分からないけど弱っているみたいよ!! もしかしたら……、今なら!!」

「あぁ、デルタ!!」

 ルサークは剣を振り上げてスパチーの元へと距離を詰める。

 お腹を抱えてしゃがみ込む幼女を斬るのは心が痛むが、相手は魔人だ。

「……」

 ルサークは何か考え込み、立ち止まる。

「どうしたの? ルサーク!?」

「おい、魔人。悪さをしないなら飯を食わせてやる」

 その言葉にデルタは驚いて大きな声を出す。

「なっ!? 何言ってんのよ!!」

「ホントか!? ゆーしゃ!!」

 スパチーは、ぱあぁっと明るい顔をして二人を見た。

「ルサーク!! いったい何考えて!!」

 後ろを向いてルサークはデルタに小声で話す。

「相手は魔人だ。一撃で仕留められるか怪しい。だが馬鹿そうだ。恩を売れば何か策が出来るかもしれない」

「そんな事言ったって……」

 確かにルサークの言う事も一理ある。下手に怒らせるよりも懐柔した方が得策なのかもしれない。

「ゆーしゃ!! これ美味いな!!」

「なっ!! お前勝手に!!」

 料理をがっついて食べているスパチー。実に美味しそうに満面の笑みを浮かべていた。