別の形で会い直した宿敵が結婚を迫って来たんだが

 骸骨剣士が召喚され、白兵戦が始まった。

 ケイも柵を越え、骸骨剣士達と戦いを始める。

 銀髪をサラサラと輝かせながら、懐に潜り込んで横薙ぎに斬り、蹴りを入れた。

 そんな中、先ほど話していた冒険者が骸骨剣士の振り下ろした剣を(かぶと)で受けてしまう。

 命があるのかどうか分からないが、その場に倒れてしまう冒険者。シヘンは思わず柵を飛び越えて、火炎魔法を打ち出しながら近づいた。

「おい、シヘン!!」

 わき見だが、その光景を見ていたケイ。

 しかし、自分も目の前の剣士の攻撃を避け、反撃をしなくてはならない。

 倒れた冒険者の前で魔法の防御壁を展開するシヘン。

「大丈夫ですか!?」

 息はしていたが、揺さぶるも返事は無い。

 防御壁は何度も剣を叩き付けられてボロボロになっていく。

 そこへ、とどめの一撃が加えられた。

 ガラスを割るように粉々に砕け散る防御壁。再び展開しようと右腕を伸ばすシヘン。

 次の瞬間。その腕は宙に舞った。

 骸骨剣士の斬り上げた一撃が、シヘンの腕を奪う。

 何が起こったか分からなかったシヘンだが。経験したことも無い激痛を感じて本能のままに叫ぶ。

「ああああああ!!!!」

「シヘン!!!」

 ケイはシヘンの元へ駆け寄る。倒れ込んだ彼女は無い腕を抑えるようにうずくまる。

 そんな二人の元へ更に湧き続ける骸骨剣士。

 瞬間。ケイは風を感じた。

 隣をさっと誰かが通り過ぎる。

 黄金の鎧を着た彼は、次々に骸骨剣士を切り捨て、箱まで一直線に進んで飛び上がり、剣を叩き付けた。

 崩れる箱。

「マルクエンさん!!!」

 次に、ケイ達はドーム状の分厚い防御壁に守られる。

「よく頑張ったわね。ちょっと待ってて」

「ラミッタさんも!!」

 ケイは安堵すると同時に、シヘンの傷を確認した。

 酷い出血だった。とにかく血を止めなくてはと、自分の上着でシヘンの腕をぐるぐる巻きにした。

「ケイ、ちょっと待ってな!!」

 リッチェも闇魔法で作った魔法のナイフを魔物に飛ばす。

 辺りはあっという間に制圧され、ラミッタは防御壁を解いた。

 マルクエン達は急いでシヘンの元に駆け寄る。

「みな……さん……」

「シヘンさん、大丈夫かシヘンさん!!!」

 マルクエンはシヘンの上半身を抱え上げて声を掛け続けた。

「私……、死んじゃう……んですかね……」

 マルクエンは首を振って言う。

「大丈夫だ、この程度の傷で死ぬはずがない!!」

「そうよシヘン!! 弱気にならないで!!」

 シヘンは痛みに耐えながら笑顔を作る。

「マルクエンさん……。あの……、森で助けられて……、一緒に冒険してくれて……、楽しかったです」

 マルクエンはシヘンの傷口を抑えながら言う。

「気をしっかり持って!!」

 リッチェも周りを見渡して叫んだ。

「衛生兵!! 衛生兵は!!!」

「マルクエンさん……、ラミッタさん、ケイ……。リッチェさんも……、ありがとう」

 ラミッタはあまり得意でない回復魔法を掛け続ける。

「しっかりしなさいシヘン!!!」

「マルクエンさん……。私、マルクエンさん……、のこと……、好きでした……」

 最後の気力を振り絞ってシヘンはそう言うと、だらりと体の力が抜けてしまった。




「シヘンさん!! シヘンさん!!」

 マルクエンはシヘンを抱きかかえながら叫び続ける。ケイも同じく声を掛け続けた。

「シヘン!! しっかりしろ!!」

 そこへ、衛生兵がやって来て止血と痛み止めの回復魔法を掛ける。

「シヘンさん!!」

「落ち着きなさい宿敵!! まだ息はあるわ!!」

 ラミッタに言われ、少しだけ冷静さを取り戻すマルクエン。

「勇者様!! 他の箱も動き始めたようです!!」

 東と西の箱も動き始め、マルクエン達は感傷に浸る間も無かった。

「宿敵!! 私は東に行くわ!!」

「あぁ、分かった!! ケイさん、シヘンさんを頼む!!」

「わかりました!!」

 まずは街を守らねばならない。マルクエンとラミッタは二手に分かれ、箱を破壊しに行く。

 残されたケイは気を失ったシヘンを抱きかかえて、病院まで向かった。




 ほぼ同時刻に箱の元へと到着したラミッタとマルクエンは、魔物と戦い、難なく箱を破壊する。

 そして、勝利の余韻に浸る間もなく、シヘンの元へと急ぐ。



 先に戻ったマルクエンは、近くの病院を訪ねた。

 先ほどの襲撃で出た怪我人で大忙しだったが、何とか看護師を捕まえてマルクエンは聞く。

「あの、ここにシヘンという方は来ませんでしたか?」

「シヘンさんですね! あちらの処置室に……」

 言葉を聞き終える前にマルクエンは手を向けられた部屋へ急ぐ。

 部屋の中は怪我人たちのうめき声が響いていた。そこでマルクエンはベッド横の椅子に座るケイとリッチェを見つける。

「シヘンさん!!」

 その声に気付いたケイはハッと顔を上げた。

「あ、マルクエンさん!!」

「ケイさん!! シヘンさんは!?」

「睡眠魔法で眠ってるッス。起きていても苦しいだろうってお医者さんが……」

 荒い息をしながら目を閉じているシヘンを見てマルクエンはふぅーっと息を吐いた。

 ひとまず、辛うじて命があって良かったと。

 そこに慌ただしく、ラミッタもやって来た。

「ラミッタ……」

「こっちも終わったわ」

 ラミッタはシヘンの顔を見て、少し安堵した。

 そこに、ケイは泣きそうな顔をしながら二人へ言う。

「シヘンの腕、戦いでぐちゃぐちゃになっちゃって……。元に戻すのは難しいって……」

「腕の事なら心配ないわ。命があればだけどね……」

 ラミッタの言葉にマルクエンはハッと思い出した。

「スフィン将軍か!!」

「えぇ、そうよ」

 あぁそうだ。スフィン将軍の待つ王都まで行けば、こんな怪我一瞬で元通りだと。

「い、今すぐ行こう!! 馬車を持って……」

 そこまで言いかけたマルクエンにラミッタは言葉を掛ける。

「待ちなさい。私達は勇者よ。勝手な行動は許されていないわ」

「だが!! それではシヘンさんが!!!」

「身内であっても特別扱いは出来ないわ。宿敵も軍に国に仕えていたのならばわかるでしょう?」

 そこまで言われてマルクエンは思わず声を荒げる。

「じゃあシヘンさんはこのままで良いと!?」

「良い訳ないじゃない!!」

 ラミッタも声を大にして言い返した。

「でもね、私達が勝手な行動を取れば、魔人によって多くの人が危険に晒されるかもしれないわ」

「それは、分かっている……」

 お互いしばらく沈黙があった。

 その後マルクエンが口を開く。

「すまない。冷静さを欠いた」