別の形で会い直した宿敵が結婚を迫って来たんだが

 ラミッタは酷い二日酔いの状態で目が覚める。頭は痛いし、気分は最低だ。

「っつ……。飲みすぎたわね……」

 覚えた酔い覚ましの魔法を使うと、徐々に体が楽になる。

 すました顔でロビーまで向かうと、紅茶片手にリッチェと談笑しているマルクエンが居た。

「おはようラミッタ」

「すっかり飲みすぎたわ……」

「ゴメス町長からも何かあるまでは待機って言われてやすし、どうしやすか?」

 リッチェの言葉に、二人はうーんとしばし考えて、マルクエンが先に口を開く。

「この街の冒険者ギルドに行ってみたいですね。シヘンさんとケイさんも居るかもしれない」

 それを聞いたラミッタはハッとして頭を押さえる。

「あっちゃー。そういや飲みすぎて滞在先聞くの忘れてたわ」

「まぁまぁ。行ってみますかい? ご案内しやすぜ!」

 リッチェの言葉にマルクエンは頷いた。 

「そうですね、お願いします」

 先導して歩くリッチェの後ろを付いて行く二人。その道すがら、二人は街並みを見ていた。

 古い建物と新しい建物が混在する。発展途上といった街だ。

 人々は箱の存在にも負けず、活気があり、良い街だなとマルクエンは思う。

「着きやしたぜ!」
 
 年季の入ったレンガ造りに赤い屋根の冒険者ギルドが見えてきた。

 リッチェが扉を開けて、二人を招く。マルクエンとラミッタはシヘンとケイが居ないかと、冒険者で賑わっている室内を見渡す。

「あ、マルクエンさん!!」

 向こうから呼び声がやって来た。シヘンの声だ。

 だが、それと同時にギルド中がざわついた。

「今、マルクエンって……」

「勇者が、まさか……」

「でもアレ、金ピカの鎧……」

 冒険者たちは口々に言いながらマルクエンに視線が集まる。

「あらあら、旦那ぁ。注目の的ですねい」

 マルクエンはハハハと苦笑し、ラミッタは片目を閉じてはぁっとため息を漏らす。

 シヘンは大声で呼びかけたのはまずかったかともじもじしていた。

 視線を感じながら、マルクエン達はシヘンとケイの元へ歩く。

「すんません、マルクエンさん。シヘンが大声で呼んじゃって……」

 ケイは後ろ手に頭を掻きながら謝る。

「いえいえ、大丈夫ですよ。ところでお二人も何か依頼を受けに?」

 マルクエンが尋ねると、シヘンは一枚の紙を取り出した。

「はい! 箱の警備をするお仕事を選びました!」

「そうですか、お二人が警備してくれるのなら頼もしいです」

 マルクエンに言われて照れる二人。

「しっかりやるのよ! 期待しているわ!」 

 ラミッタにまでそう言われ、気合いを入れ直す二人。

「はいっス! 頑張るっス!! じゃあ早速時間なので行ってくるっス!!」

「はいはい。行ってらっしゃい」

「ケイ、頑張るんだぞ。シヘンさんもケイの事よろしく頼みやしたぜ」

 勇者達とリッチェに見送られ、二人は冒険者ギルドを出て行った。



 マルクエン達は街中での待機となる。街を囲むように置かれた三つの地点にある箱のいずれかが作動しても駆け付けられるようにだ。

「どうしましょ。暇ね」

「あぁ、そうだな」

 暇を持て余した二人はホテルのロビーでのんびりと(くつろ)いでいた。

「お暇でしたら、シヘンさんとケイの仕事ぶりでも見に行きやすかい?」




 その頃、シヘンとケイは箱の警備に参加していた。

 と言っても、他の冒険者や衛兵と共に、箱の前で待機しているだけだったが。

 箱は尖った木の柵で覆われ、気休めかもしれないが、魔物が出た時に少しでも進行を阻もうとしていた。

 その柵の外で、ケイは両腕を頭の後ろで組み、うーんと体を逸らせ、伸びをする。

「暇だなー……」

 シヘンはフフッと笑いながらも、箱を見つめていた。

「そうだね、でもいつ来るか分からないから頑張らなくっちゃ!」

 そんな二人に、他の冒険者グループが話しかける。

「あ、あのー。ちょっといいっすか?」

 ケイは声の方を振り返り、首を傾げながら言った。

「んあ? 何スかー?」

「冒険者ギルドで勇者様と話しているのみたんすけど、どういう関係なのかなーって」

 シヘンは軽く笑顔を向けながら、疑問に答える。

「昔、少しだけご一緒に旅をさせてもらっていたんですよ」

「え、すごっ!! あ、じゃあもしかして龍殺しのパーティって……」

 久々に呼ばれるその異名に、ケイはぶんぶんと手を振る。

「確かにパーティ組んでた時に言われてたっスけど。アレはマルクエンさんとラミッタさんの二人で倒しただけっスから」

「そう。私達はただのCランク冒険者です」

 シヘンとケイは、マルクエン達と別れた後に、DランクからCランクに階級が上がっていた。

「そうだとしても凄い!!」

 そんな(なご)やかな会話をしていたが、ふとシヘンが何か直感的に嫌な気配を感じ、箱を見上げる。

 釣られて皆も箱を見上げた。

 すると、白銀の箱は、徐々に緑がかり、光始めた。

 初めにケイが叫ぶ。

「箱が!!」

 辺りは騒然となり、皆の心拍数が一気に上昇する。衛兵長が叫んだ。

「皆、武器を構えろ!!!」

 言った後、衛兵長は連絡石を強く握る。これで勇者には知らせが届くはずだ。

 そして、次の瞬間。箱からは魔物が現れだす。

「よし、いくぞシヘン!!」

「わかった、ケイ!!」

 柵の外側からシヘンは火の玉を魔物に向かって数発撃ちだす。

 業火に包まれ、数体の魔物は姿を消した。

 魔物に向かって次々と魔法と矢が飛び交う。打ち漏らした魔物が柵に向かってやって来た。

「こんにゃろ!!」

 柵の隙間からシヘンは魔物に剣を突き刺す。

 他の者も剣、槍、斧で攻撃を加えていた。

「勇者様が来るまで時間を稼ぐんだ!!」 

 衛兵長の言葉に答えるかのように皆は攻撃の手を更に強める。