別の形で会い直した宿敵が結婚を迫って来たんだが

「大丈夫だよリッチェ姉ぇ。実は自分もリッチェ姉ぇと同じ、盗賊の一族だったんスよ」

 ケイは少し言いにくそうに、下を向いて話す。

「盗賊になりたくなくて、アジトを飛び出して、冒険者になったんス。皆さんを騙すつもりじゃなかったんスけど……」

 暗い顔をするケイに、マルクエンは話しかける。

「騙すも何も、ケイさんはケイさんだ」

 その言葉にケイは心が温かくなるのを感じた。

「マルクエンさん……」

「まぁ、マルクエンの旦那がそう言ってくれるなら。話したいこともあるだろうし飲みながら話しましょうや!」

 5人は色んな事を話し始める。

 リッチェには前の世界の事を、シヘンとケイには試練の塔を攻略したこと、ラミッタの上司であるスフィン将軍と出会ったこと。

 信じられないような話の連続に、シヘンは思わず感想を述べた。

「お二人も、私達と離れてから大変だったんですね」

「えぇ、ホントに大変だったわ」

 ラミッタは酒を飲みながらフライドポテトを食べ、顔を赤くし、愚痴をこぼす。

「で、二人はどうだったの? 私達と離れてから」

 シヘンはおずおずと質問に答えた。

「私は、お二人みたいになりたくて冒険者として依頼をこなしながら修行していました!」

「そうそう、旅をしながらっスね。私はこの街にあまり近付きたくなかったんスけど、他に寄れる場所もなかったので……」

 ケイはやはり、後ろめたい気持ちがあるのだろう。

「まぁまぁ、再開を喜んで今日は飲み明かしましょうや!」

 リッチェが言うと、皆は笑顔で返事をし、酒盛りが始まる。




「む、むぅ……。私はもう眠い……」

 マルクエンはそんな事を言いながら机に突っ伏した。

「眠いって、アンタ酒飲んでないでしょ」

「腹がいっぱいになったのでな……」

 ウトウトしているマルクエンにラミッタは皮肉を言う。

「お腹いっぱいで寝るとか、赤ちゃんかしら? 先に宿に行って寝てなさい」

「うぅ……。久しぶりにシヘンさんとケイさんに会えたというのに面目ない」

 ねむねむマルクエンはそう言いながら顔を上げた。

「お気になさらないでください! しばらくはこの街に居ますので……」

「そうっスよ! また会いましょう!」

「すみません。それじゃ私はこれで失礼します……」

 立ち上がったマルクエンは店を出ようとし、女店主に声を掛ける。

「お会計良いですか?」

 マルクエンに声を掛けられて、ビクッとする女店主。

「い、いえ!! 勇者様からお代など頂けませんよ!!」

「そういう訳には……。とりあえずこれ置いておきますので、足りなければラミッタ……。あの茶髪の女性から貰って下さい」

 そう言ってマルクエンは金貨を一枚置いた。どう見繕っても今夜の酒盛りをあと数回やってもお釣りが来る。

「うええええ!? ちょっ、出しすぎですよ!! あ、いや、お釣りお釣り……足りるかな……?」

「念のためです。余ったらチップで。美味しい料理をありがとうございます。ゴチソウサマでした」

 そう言って店を出ていくマルクエンに思わず女店主はキュンとしてしまうのであった。

 横目でそんな様子をリッチェはニヤニヤと見ている。

「いやー。マルクエンの旦那は私もビックリの大盗賊ですねぇ。恋泥棒だ」

 はっはっはと大笑いしながら言うリッチェ。ケイもハハハと、つられて笑った。



「ところで、ラミッタさんはマルクエンの旦那とどうなんですかい?」

 リッチェに言われ、ラミッタは酒を飲みながら片目を閉じる。

「どうって、殺し合いして今は休戦しているだけですよ」

「それだけですかい?」

「それだけです」

 急に素っ気なくなるラミッタを見て、リッチェはシヘンの方に視線を移し、尋ねた。

「シヘンさん。シヘンさんはマルクエンの旦那をどう思っているんで?」

 シヘンは両手を上げてあわあわと酒に酔った顔を更に赤くする。

「ど、どうって!! いや、あの、マルクエンさんは素敵な方だと思います……」

「ほーん」

 リッチェはニヤニヤとして酒を飲む。

「なんでい、お二人ともマルクエンの旦那を狙ってないならあっしが頂いちまいましょうかね」

 シヘンは酒を吹きだし、ラミッタはため息を付いた。

「やめておいた方が良いですよ。アイツはド変態卑猥野郎です」

「ド変態卑猥野郎だとしても、あっしは構いやせんがね」

 意外な返しに、少し冷静さを崩すラミッタ。リッチェは続けて言う。

「いや、マルクエンの旦那は見た目も中々イイ男ですし、中身も誠実。地位も騎士様ですし、こっちの世界では勇者だ!」

 そこまで話してから酒を一気に飲み干して続ける。

「かなりの優良物件だと思いますがね」

 リッチェの言葉にラミッタは反論をした。

「確かにそうかもしれないけど、アイツはお坊ちゃまで家事全般出来ないですよ?」

「それぐらいあっしがやりまさぁ! ってか、ラミッタさん『確かにそうかも』ってマルクエンさんがイイ男なのは認めるんですねぇ?」

 しまったとラミッタは思った後に、首をブンブンと横に振る。

「いや違っ、それは違くて!!」

「ラミッタさん。忠告しておきやすが、世の中恋の泥棒猫は結構いやすぜ? うかうかしているとあっという間にサカナは盗まれちまう」

「な、何が言いたいのかわからないわ!!」

 そこに酔いが回ったシヘンも話し始めた。

「私も、私も別にマルクエンさんがド変態卑猥野郎でも、家事が出来なくても良いと思いますけどね」

「なっ、し、シヘン!? あなたまで!?」

 そこにケイも乗っかって喋りだす。

「ちーなーみーにー? 私もマルクエンさんはフツーにカッコイイと思っているっスよ!! あと、優しいし!!」

「ケイ!? あなたも!?」

 そんな状況を楽しむかのようにリッチェは笑って追加の酒を飲む。



 誰が噂か宿で半分寝ぼけているマルクエンはくしゃみを連発していた。



 定刻になると音が鳴る魔石入りの時計から音が鳴り響き、マルクエンは目が覚める。

「う、うーん。朝か……」

 支度をしてロビーに向かうと、リッチェが待っていた。

「おはようございます。リッチェさん」

「おはようごぜぇやす! マルクエンの旦那!!」

 いつもは早いラミッタの姿が見えなくてマルクエンは辺りを見回す。

「ラミッタはまだ起きていないのでしょうか?」

「えぇ、昨日飲ませすぎちやいやしてね」