「あ、いや、まぁ、勇者として当然です」

 金髪の男ルサークはそんな事を言って場をごまかす。冷や汗が垂れそうだ。

「大したおもてなしは出来ませんが、是非村でお休みください」

 村長らしき老人に言われ、待ってましたとばかりに二人は笑顔を作る。



 案内された家で食事を振舞われる二人。運ばれたパンや肉に今にもよだれが(こぼ)れそうだ。

「どうぞ、お召し上がり下さい」

「そ、そうですか。それでは遠慮なく!!」

 久しぶりの食事に夢中でがっつくルサークとデルタ。

「う、うまい!!」

「本当、美味しい!!」

 腹も膨れて満足する二人。

 ご自由にお使いくださいと言われた家で二人は荷物を置く。

「って、こんなのんびりしている場合じゃないぞデルタ!! 勇者じゃないってバレたら……」

「良いじゃない。久しぶりのベッドよ。ゆっくり寝てからお(いとま)しましょう」

 デルタの提案も確かにそうだ。今は身も心もボロボロだった。

 早々に寝てしまったデルタだが。ルサークは何だか落ち着かずに村の中に出て行った。

 あちらこちらから「勇者様」と声を掛けられ、何だか気恥ずかしい。

「勇者様!!」

 目を輝かせた子供達も集まってきた。

「どうしたら勇者様になれるの!? 俺も勇者様になりたい!!」

「え、えーっとそうだな。強くなって悪いやつを倒すんだ」

 口から出まかせをルサークは言う。

「俺も勇者様みたいに強くなれるかな!?」

「そうだな。きっとなれるさ!!」

 結局、外に出ても大変なので、家へ戻ることにしたルサーク。

「勇者様か……」

「戻ってくるなり何よ」

 昼寝から目覚めたデルタがあくびをしながらルサークを見た。

「いや、俺も子供の頃、憧れたなって」

「そりゃ、誰だって強い正義の味方には憧れるでしょ」

「今は真反対の事をしているがな」

 そう、二人は名の上がらない冒険者として細々と活動している。おまけに今は勇者を(かた)っていた。

「難しい事は考えないで、今は休みましょ」

「あ、あぁ、そうだな」

 久しぶりに雨風を防げるベッドでルサークは眠りにつく。

 あくる日の朝。村民が血相を変えて家のドアを叩いていた。

「大変です勇者様!! 村に魔物が!!」

 それを聞いて二人は青ざめる。まずい事になったと。

「ま、魔物ですか!?」

「嘘でしょ!?」

 外に出ると熊型の魔物、猪型の魔物が10匹程村に向かってきていた。

 衛兵が武器を構えて睨んでいるが、多勢に無勢だ。

「勇者様、村をお守りください!!」




「やれるか? デルタ」

「わからないけど、やるしかないでしょ!!」

 小声で声を交わすと、二人は前に出る。

 ルサークは剣で猪型の魔物を切り裂き、そのまま熊型の魔物へ走り向かう。

 その後ろでデルタは雷撃を飛ばして支援をした。

 感電する魔物たちの隙を逃さず、ルサークが剣で急所を突き刺し仕留める。

 それを繰り返して、何とか魔物は撃退できた。

「勇者様スゲー!!!」

 村の子供たちが歓声を上げながら、帰還した二人に群がってくる。

「いやまぁ、大したことないさ」

 ハハハと苦笑いしながらルサークは言った。

「勇者様、ありがとうございます!!」

 村人達からも続々と感謝の言葉を述べられる。後ろめたさはあるが、悪い気はしなかった。




「ねぇ、ルサーク……。やっぱアンタだけでも冒険者に戻ったら?」

 外での騒動が落ち着き、家の中へと帰ると、女魔剣士デルタがそう言った。

「いや、逃げるなら二人でだ」

「アンタって変わってるわね」

「よく言われるよ」

 ルサークは笑い、デルタは俯いて顔を隠す。

「ごほっごほ」

 だが、突然、デルタが咳をしてルサークは心配しだした。

「大丈夫かデルタ!? やっぱりまだ病気が……」

「平気よ、薬を飲んだおかげで良くはなっているわ」

 本調子でないデルタを心配しつつ、ルサークは横になった彼女を残して外へ出てみる。

「勇者様ー!!」

 子供達がルサークの元へと駆け寄ってきた。

「勇者様、俺も強くなりたい!!」

「あぁ、きっとなれるさ」

 子供の頭を撫でながら笑顔でルサークは答える。

「俺、剣の練習してるんだ!!」

「お、それじゃ稽古(けいこ)でもしてみるか?」

「やったー!!!」

 子供たちは家に戻って木刀を携え、ルサークと開けた場所にまでやってきた。

 ルサークは日が暮れるまで子供達の相手をしてやった。

 子供達の親が、ルサークに頭を下げ、駄々をこねる子の手を引いて家へ向かう。

 その時、親の一人が、ルサークに話しかけてきた。

「私、勇者様ってもっと近寄りがたいというか、お偉い雰囲気の方かと思っていました」

「あー、そうですかね?」

「ですけど、子供達にも好かれて、私達にも偉そうにしないし、親しみやすいというか」

「ははは、ありがとうございます」

 騙している事にチクリと胸が痛むが、ルサークは笑顔を作る。

「勇者様ー、明日も稽古してねー!!!」

「おぅ、また明日な!!」

 宿泊している家に戻ると、デルタは起き上がり、椅子に座っていた。

「遅かったわね、どうしたの?」

「村の子供たちに稽古を付けていた」

 それを聞いてふっと笑うデルタ。

「何か、本当に勇者様みたいな事しているわね」

「まぁ、騙してはしまったが、せめてもの罪滅ぼしにな。それよりデルタ、体調はどうだ?」

「私は大丈夫よ、明日には出発しましょう」

「そうか、わかった」

 ルサークは元気そうなデルタを見て、急に疲れが湧いてきた。

 村人から届けられた夕飯を食べ、眠りにつく。