別の形で会い直した宿敵が結婚を迫って来たんだが

「そういや、スルーしちまったんですが、ヴィシソワ? さんって誰なんですかい?」

 マッサの発言にマルクエンはしまったと思う。

「え、えーっとですね……」

 マルクエンは苦手な嘘を付こうとするが、いい案が思い浮かばない。

「私達をしごいた奴よ。魔人並みに強いわ」

「へぇ、魔人並みに……」

 ラミッタのフォローに思わずマルクエンは助かったと胸を撫でおろす。

 そんな会話をしていたら、城が眼前まで迫ってきた。

 衛兵がマルクエンとラミッタを見て、鎧の音を立てながら走り寄ってくる。

「お待ちしておりました! どうぞ、城内へ!」

 城門を潜り抜け、立派な城へと入った。マッサは思わず周りをキョロキョロと見渡している。

 玉座の間へと案内されると、大きな扉の前には大臣が待っていた。

「マルクエン殿、ラミッタ殿。ご無事で何よりでした!」

「いえいえ、魔人の襲撃により遅れました事、お詫び申し上げます」

 マルクエンは深々と頭を下げて謝罪の言葉を口にする。

「とんでもございません! とまぁ、お話は色々とお伺いしたいのですが、それは王も同じですので……」

「そうですね、ご報告をしなければ」

「それと一点だけ。そちらのお方が、もう一人の異世界からの勇者様でしょうか?」

 大臣がスフィンの方へと手を向けて話し出た。

「そうですぜ! スフィンさんって言って聖女様ですぜ! あ、ついでに俺は聖域チターの街でギルドマスターやっていますマッサです!」

「なんと、聖女様でしたか。そしてあなたはギルドマスター殿で」

「だから私は聖女などではない」

 スフィンはため息を付きながら否定する。

「ともかく、詳しいお話は玉座の間にてお伺い致しましょう。こちらへ」

 近衛兵が両開きの扉を開け、煌びやかな部屋へとマルクエン達は進む。

「おぉ、久しぶりですな。マルクエン殿、ラミッタ殿」

 王がそう口にし、マルクエン達は赤い絨毯の上に(ひざまず)いた。

「そして、初めましてですかな。異世界の勇者様と……」

「お初にお目にかかります。聖域チターの街でギルドマスターを務めさせて頂いております。マッサと申します。こちらは異世界の勇者様、スフィン様です」

「スフィン・スクと申します。ラミッタと同国の軍人で、将軍をしておりました」

 その言葉を聞いて王は目を丸くする。

「なんと! 将軍様であらせられましたか。改めまして、私はこの国『コニヤン』の王。メイクーンと申します」

 互いの堅苦しい自己紹介が済み、さっそく王は本題に入った。

「それで、簡潔で構いませんので、今の状況をご説明頂きたいのですが、よろしいですかな?」

 スフィンがチターの街に突然現れた事。ラミッタと同じように、あちらの世界で戦死したこと。

 何故か魔物の出る箱を触れると壊せる事。

 そして、試練の塔で手に入れた治癒の能力。

 手短にすべて話した。

「なるほど、信じがたい程に不思議な話ですが。真実なのでしょう」

 王はそう言った後に、うむと考える。

「疑うわけではありませんが、是非その治癒魔法を拝見したいですな。もしよろしければ、我が国の負傷兵を治しては下さらぬか?」

「かしこまりました」

 スフィンが返事をすると共に、伝令が走り出し、しばらくすると数人の兵が連れてこられた。

 彼らは初めて入る玉座の間に緊張し、落ち着かない様子だ。皆、負傷兵で、片腕の無い者、隻眼の者、包帯を血で染めている者が居た。



「私の能力は、あくまで怪我を治す物らしく。まずはそちらの方から治しましょう」

 スフィンは血に染まった包帯をしている者を見て歩み寄る。

 その傷に手を触れて魔力を込めると、瞬時に兵士は痛みが治まった。

「なっ、これはっ!!」

 思わず兵士は、王の前だというのに包帯を外してしまう。

 その肌には切り傷が一つも見当たらなかった。

 これには、思わず王も目を丸くする。

「この様なことが……」

「次に、先ほどお話しましたが、私の能力は怪我を治す物ですので。少し失礼する」

 針を取り出したスフィンは片腕の無い者の、本来腕があった付け根に針を刺す。

 ちくりとし、血が流れた事を確認すると、スフィンは魔力を込めた。

 その瞬間。一気に腕が生えだし、兵士も王も目を見開く。

「慣れたら、動くようになりますよ」

 軽く微笑んで言うスフィンを見て兵士は我に返り、頭を下げた。

「あっ、あっ、ありがとうございます!」

 涙を(にじ)ませながら言う兵士。

 そして、隻眼の兵も期待に胸を膨らませながらスフィンを見ていた。

「目の治療は初めてなので、期待に沿えるかはわかりませんが」

「ど、どうかお願いします!」

 針で眼孔の奥を刺すスフィン。流石に中々の痛みと恐怖で兵士は顔を歪ませる。

 が、次の瞬間には視界が広がっていた。出来たばかりの目で兵士は涙を流す。

 兵たちは感謝の言葉をスフィンに言い続けた。

「うむ、スフィン殿。私からも厚く礼を言おう」

「いえ、恐れ多いです」

「スフィン殿には、勇者というよりも。それこそ聖女としてご活躍頂きたいのだが。どうでしょうかな?」

 王の言葉にスフィンは(ひざまず)いて言う。

「恐れ多いですが、私は軍人ですので。戦う方が性に合っています」

「ふむ……」

 王は目を閉じて考えた。

「ともかく、一度勇者としての試練を受けて頂きたい」

「はっ、かしこまりました」

 その後、大臣の後を付いて一行は城の中を移動する。

 ラミッタとマルクエンにとっては見慣れた。若干の懐かしさとトラウマさえも感じさせる地下への道だ。

 扉を開けて地下にはいると、初めてのスフィンとマッサは驚く。

「なっ、城の地下にこんなもんが!?」

 無理もない。そこには闘技場があり、観客席には先回りしていた王も、姫も座っていた。

「これは……」

 スフィンは言いかけた瞬間。膨大な魔力を感じる。

「お久しぶりですね。マルクエンさん。ラミッタさん」

 闘技場、向かいの入り口から翼の生えた人間。いや、魔人が空を飛び現れた。

「ま、魔人だと!?」

 思わずマッサは声を上げる。スフィンも剣を抜いて構えた。