「わ、わかりました。そ、それでしたら!!」
娘の母は急いで二人分の朝食を用意する。
「ゆ、勇者様!! お掛けくだせぇ!!」
「それでは失礼して……」
「そちらの勇者様もこっちへ!! どうぞ!!」
ラミッタも招かれるが、遠慮をした。
「いえ、私は大丈夫ですので……」
「勇者のお姉さんも食べてってー!!」
小さな子供の懇願に負けたラミッタも、ご厄介になる事になる。
マルクエンの体格には少し小さめな椅子に腰かける。ラミッタもその隣へ座った。
しばらくすると、目玉焼きに、焼いた塩漬け肉。根菜のスープとパンが出てくる。
「勇者様。こんな貧乏なメシで申し訳ねえけんども……」
「いえいえ、美味しそうです。イタダキマス!」
元気よく挨拶をしてマルクエンは食事に手を付けた。
確かに質素ではあるが、目玉焼きもスープも美味で、精一杯のごちそうである塩漬け肉も絶品だ。
その食事の途中で、家の娘が突然こんな事を言い出した。
「勇者のお兄さんとお姉さんって結婚してるの?」
マルクエンは咳き込み、ラミッタは一瞬の間を置いてから無言で赤面する。
「なっ、そ、そんな訳ないでしょ!?」
今度は焦りだして全否定するラミッタ。
「そうなの?」
「そうよ!!」
「それじゃ大きくなったら勇者のお兄さんと結婚する」
またも爆裂魔法発言でマルクエンは顔を赤くした。
「な、何を言っているのかな?」
「そうだぞ、勇者様に失礼だべ!! まったくこの子は……」
母が呆れて言った後に、ラミッタも娘に話し出す。
「コイツは凄いド変態卑猥野郎だから駄目よ!!」
「どへんたい? どへんたいってなに?」
思わずマルクエンはラミッタの方に振り向いた。
「おまっ!! お子さんになんて事を教えるんだ!!」
「い、いや、つい癖で……」
気まずい空気が流れる食卓。
「と、とにかく。コイツはダメよ? とんでもない目に合うわよ?」
「えー、どへんたいの勇者のお兄ちゃんカッコいいもん!!」
「どへんたいじゃないからね?」
マルクエンは苦笑いしながら訂正していた。
何とか誤魔化しつつ、食事を終えた二人。
「ゴチソウサマデシタ! それで、何かお礼をしたいのですが……」
「お礼だなんてとんでもねぇ!! 勇者様には村を救って頂きましたんで!!」
「それならお嬢ちゃん。空飛んでみない?」
ラミッタの言葉に娘も父母も驚く。
だが、次には娘は目を輝かせてラミッタを見ていた。
「お空飛べるの!?」
「ちょっとだけだけどね?」
「飛ぶ飛ぶ!!」
家の外に出て、ラミッタは娘を抱きかかえて空を飛んでいた。
村人の視線が集まり、子供達も次々にラミッタの元へ集ったのは言うまでもない。
酔ったスフィンから軍への勧誘を受けていたマッサだったが、二人ともいつの間にか眠っていたらしい。
隣のベッドで無防備にもスヤスヤ眠る美人に一瞬、良からぬ事を考えたが、ダメだダメだと頭を振る。
「何か朝飯でも作っておくかー」
独り言をしてから、マッサは朝食の準備に取り掛かった。
一通りの調理器具と食材はあったので、簡単なスープと目玉焼き。パンを用意して朝食を拵える。
その間に目覚めたらしいスフィンが居間へやって来た。長い金髪がボサボサに乱れている。
「あぁ……。おはよう」
昨日のあやふやな記憶のままスフィンはマッサに挨拶をした。
「おはようございまーす! 朝飯出来てますぜ」
「あ、あぁ。すまないな……」
何だかやけに素直なスフィンにマッサは調子が崩される。
二人は向かい合って椅子に腰かけ、スフィンは目の前の朝食をまじまじと見つめた。
「それじゃイタダキマス!」
マッサは元気よく言ってからフォークを持ち、スフィンは無言のまま食器に手を伸ばす。
スプーンでスープを掬い、柔らかそうな唇へと運んで味わった。
「美味いな……」
「でしょ?」
マッサは得意げに言う。スフィンは黙々とパンや目玉焼きを食べていた。
「何かこうして二人で飯食べると、出会った時の事を思い出しませんか?」
「あぁ、そうだな」
何だか元気のないスフィンとの会話が耐えられず。無理して饒舌になるマッサ。
「昔のような、最近のような、何だか不思議な感じっすよね」
「まぁな」
そこで初めてスフィンは微笑む。思わずその笑顔にマッサはドキリとしてしまった。
その後は特に会話もなく、朝食が終わる。
「さーて、あのツンデレカップル勇者様を探しに行きますかね」
マッサは伸びをしてから立ち上がった。
「そうだな、行くか」
否定も肯定もせずにスフィンも腰を上げてマッサと共に家を出た。
「ほーら高い高いー」
子供を抱きかかえて空を飛ぶラミッタ。
「すごーい!!」
目を輝かせて地上を見る子供。別の子供達も早く飛びたいと羨望のまなざしを向けていた。
「あら、楽しそうですねい」
マッサが笑いながら言うと、スフィンは一瞬だけゆっくりと目を閉じた。
「王都へ向かう準備は私達で済まそう」
「将軍様もお優しい事で」
「黙れ」
マッサは「へいへい」と小声で相槌を打ってから、村長の家へと向かう。
村長の家には旅の荷物が用意されていた。流石に荷馬車とそれを引く頑丈な馬は用意できなかったが、充分だろう。
スフィンが礼を言ってから、ラミッタ達の元へと戻る。
「随分とお楽しみだったようだな、ラミッタ」
「あっ、す、スフィン将軍!!」
ラミッタは思わず敬礼をし、隣のマルクエンは軽く挨拶をした。
「おはようございます」
スフィンからの挨拶は無い。
「旅の仕度が整った。行くぞ」
代わりにあったのはそんな短い言葉だった。
王都への道を往く4人のパーティが居た。
一人は黄金の鎧に身を包み、それと似た、少しだけ長めの髪色をしている男だ。大剣と大きな荷物を背中に背負っている。
その隣にはサラサラとした長い茶髪で黒い服。左に赤い肩当ての女。細長い剣を装備している。
後ろには艶やかな、これまた長い金髪の女。青い軽装備の鎧。
そして、短髪黒髪の狩猟者のような格好の男。
一見すると、どんな組み合わせか分からないが、彼らは勇者パーティである。
黄金の鎧の男は名を『マルクエン・クライス』と言い、別世界のイーヌ王国出身の騎士だ。
今はこちらの世界で勇者をしている。
茶髪の女は『ラミッタ・ピラ』。マルクエンの国とは敵対関係のルーサという国の兵士だ。
彼女は宿敵マルクエンに胸を貫かれ絶命したが、こちらの世界へ転生してしまった。
マルクエンもその戦いの傷で後に死亡している。
今はマルクエンと休戦協定を結び、一緒に異世界の勇者となり旅をしている。
ラミッタはこちらの世界で空を飛ぶ能力を得て、それを利用した戦いをしていた。
長い金髪の女は『スフィン・スク』ルーサの将軍であり、ラミッタの上官だ。
彼女も恐らく戦死し、こちらの世界へやってきた。
スフィンもマルクエンと元の世界へ戻るまで休戦という形で一緒に行動している。
こちらの世界で傷を癒す能力を手に入れたスフィンは聖女と呼ばれていた。本人は気に入っていない様だが。
最後に黒髪の男マッサは、聖域と呼ばれる街『チター』の冒険者ギルドでギルドマスターをしていた。
勇者の護衛という形で一緒に旅をしている。
王都へは歩いて明日には着く予定だ。
夕暮れが近くなり、近くの宿場町に着いた一行。
「今日はこの町で一泊しますかー」
マッサはうーんと伸びをして言う。
「そうですね」
マルクエンは体力があるので疲れてはいなかったが、仲間の事も思い、休息を取ることにした。
「宿屋は手配しておくんで、街でも見て下さいや」
「あぁ、頼んだ」
スフィンも宿屋の確保はマッサに任せ、散策でもするかと周りを見渡す。
「何か名産物でも食べたいですね」
「イーヌの騎士は食い物の事しか考えられないようだな」
スフィンは相変わらずマルクエンに厳しい。
「ははは、それでは別行動でもしますか?」
「そうだな」
言ってスフィンはスタスタと歩いていく。
「ラミッタ、貴様はイーヌの騎士と共に行くのか?」
振り返り、後ろを付いてこないラミッタを見て不機嫌そうに言うスフィン。
「あ、いえ、今行きます! こんなド変態卑猥野郎と一緒に行くはずないじゃ無いですか」
小走りでスフィンの後を付いていくラミッタ。一人取り残されたマルクエンは寂しげに街を散策した。
「いらっしゃいませー、名物のくるみのせんべい焼きはいかがでしょうかー?」
香ばしい匂いに誘われてマルクエンは店の前まで立ち寄る。
「いらっしゃいませー! 冒険者のお兄さん! くるみのせんべい焼きですよー?」
「どうも、美味しそうですね」
「ぜひぜひ、買って行って下さい!」
マルクエンは大きなくるみのせんべいを仲間の分も購入した。
途中、食べ歩きをする。細かく砕いてあるくるみの食感と、醬油の塩加減。確かに美味だ。
娘の母は急いで二人分の朝食を用意する。
「ゆ、勇者様!! お掛けくだせぇ!!」
「それでは失礼して……」
「そちらの勇者様もこっちへ!! どうぞ!!」
ラミッタも招かれるが、遠慮をした。
「いえ、私は大丈夫ですので……」
「勇者のお姉さんも食べてってー!!」
小さな子供の懇願に負けたラミッタも、ご厄介になる事になる。
マルクエンの体格には少し小さめな椅子に腰かける。ラミッタもその隣へ座った。
しばらくすると、目玉焼きに、焼いた塩漬け肉。根菜のスープとパンが出てくる。
「勇者様。こんな貧乏なメシで申し訳ねえけんども……」
「いえいえ、美味しそうです。イタダキマス!」
元気よく挨拶をしてマルクエンは食事に手を付けた。
確かに質素ではあるが、目玉焼きもスープも美味で、精一杯のごちそうである塩漬け肉も絶品だ。
その食事の途中で、家の娘が突然こんな事を言い出した。
「勇者のお兄さんとお姉さんって結婚してるの?」
マルクエンは咳き込み、ラミッタは一瞬の間を置いてから無言で赤面する。
「なっ、そ、そんな訳ないでしょ!?」
今度は焦りだして全否定するラミッタ。
「そうなの?」
「そうよ!!」
「それじゃ大きくなったら勇者のお兄さんと結婚する」
またも爆裂魔法発言でマルクエンは顔を赤くした。
「な、何を言っているのかな?」
「そうだぞ、勇者様に失礼だべ!! まったくこの子は……」
母が呆れて言った後に、ラミッタも娘に話し出す。
「コイツは凄いド変態卑猥野郎だから駄目よ!!」
「どへんたい? どへんたいってなに?」
思わずマルクエンはラミッタの方に振り向いた。
「おまっ!! お子さんになんて事を教えるんだ!!」
「い、いや、つい癖で……」
気まずい空気が流れる食卓。
「と、とにかく。コイツはダメよ? とんでもない目に合うわよ?」
「えー、どへんたいの勇者のお兄ちゃんカッコいいもん!!」
「どへんたいじゃないからね?」
マルクエンは苦笑いしながら訂正していた。
何とか誤魔化しつつ、食事を終えた二人。
「ゴチソウサマデシタ! それで、何かお礼をしたいのですが……」
「お礼だなんてとんでもねぇ!! 勇者様には村を救って頂きましたんで!!」
「それならお嬢ちゃん。空飛んでみない?」
ラミッタの言葉に娘も父母も驚く。
だが、次には娘は目を輝かせてラミッタを見ていた。
「お空飛べるの!?」
「ちょっとだけだけどね?」
「飛ぶ飛ぶ!!」
家の外に出て、ラミッタは娘を抱きかかえて空を飛んでいた。
村人の視線が集まり、子供達も次々にラミッタの元へ集ったのは言うまでもない。
酔ったスフィンから軍への勧誘を受けていたマッサだったが、二人ともいつの間にか眠っていたらしい。
隣のベッドで無防備にもスヤスヤ眠る美人に一瞬、良からぬ事を考えたが、ダメだダメだと頭を振る。
「何か朝飯でも作っておくかー」
独り言をしてから、マッサは朝食の準備に取り掛かった。
一通りの調理器具と食材はあったので、簡単なスープと目玉焼き。パンを用意して朝食を拵える。
その間に目覚めたらしいスフィンが居間へやって来た。長い金髪がボサボサに乱れている。
「あぁ……。おはよう」
昨日のあやふやな記憶のままスフィンはマッサに挨拶をした。
「おはようございまーす! 朝飯出来てますぜ」
「あ、あぁ。すまないな……」
何だかやけに素直なスフィンにマッサは調子が崩される。
二人は向かい合って椅子に腰かけ、スフィンは目の前の朝食をまじまじと見つめた。
「それじゃイタダキマス!」
マッサは元気よく言ってからフォークを持ち、スフィンは無言のまま食器に手を伸ばす。
スプーンでスープを掬い、柔らかそうな唇へと運んで味わった。
「美味いな……」
「でしょ?」
マッサは得意げに言う。スフィンは黙々とパンや目玉焼きを食べていた。
「何かこうして二人で飯食べると、出会った時の事を思い出しませんか?」
「あぁ、そうだな」
何だか元気のないスフィンとの会話が耐えられず。無理して饒舌になるマッサ。
「昔のような、最近のような、何だか不思議な感じっすよね」
「まぁな」
そこで初めてスフィンは微笑む。思わずその笑顔にマッサはドキリとしてしまった。
その後は特に会話もなく、朝食が終わる。
「さーて、あのツンデレカップル勇者様を探しに行きますかね」
マッサは伸びをしてから立ち上がった。
「そうだな、行くか」
否定も肯定もせずにスフィンも腰を上げてマッサと共に家を出た。
「ほーら高い高いー」
子供を抱きかかえて空を飛ぶラミッタ。
「すごーい!!」
目を輝かせて地上を見る子供。別の子供達も早く飛びたいと羨望のまなざしを向けていた。
「あら、楽しそうですねい」
マッサが笑いながら言うと、スフィンは一瞬だけゆっくりと目を閉じた。
「王都へ向かう準備は私達で済まそう」
「将軍様もお優しい事で」
「黙れ」
マッサは「へいへい」と小声で相槌を打ってから、村長の家へと向かう。
村長の家には旅の荷物が用意されていた。流石に荷馬車とそれを引く頑丈な馬は用意できなかったが、充分だろう。
スフィンが礼を言ってから、ラミッタ達の元へと戻る。
「随分とお楽しみだったようだな、ラミッタ」
「あっ、す、スフィン将軍!!」
ラミッタは思わず敬礼をし、隣のマルクエンは軽く挨拶をした。
「おはようございます」
スフィンからの挨拶は無い。
「旅の仕度が整った。行くぞ」
代わりにあったのはそんな短い言葉だった。
王都への道を往く4人のパーティが居た。
一人は黄金の鎧に身を包み、それと似た、少しだけ長めの髪色をしている男だ。大剣と大きな荷物を背中に背負っている。
その隣にはサラサラとした長い茶髪で黒い服。左に赤い肩当ての女。細長い剣を装備している。
後ろには艶やかな、これまた長い金髪の女。青い軽装備の鎧。
そして、短髪黒髪の狩猟者のような格好の男。
一見すると、どんな組み合わせか分からないが、彼らは勇者パーティである。
黄金の鎧の男は名を『マルクエン・クライス』と言い、別世界のイーヌ王国出身の騎士だ。
今はこちらの世界で勇者をしている。
茶髪の女は『ラミッタ・ピラ』。マルクエンの国とは敵対関係のルーサという国の兵士だ。
彼女は宿敵マルクエンに胸を貫かれ絶命したが、こちらの世界へ転生してしまった。
マルクエンもその戦いの傷で後に死亡している。
今はマルクエンと休戦協定を結び、一緒に異世界の勇者となり旅をしている。
ラミッタはこちらの世界で空を飛ぶ能力を得て、それを利用した戦いをしていた。
長い金髪の女は『スフィン・スク』ルーサの将軍であり、ラミッタの上官だ。
彼女も恐らく戦死し、こちらの世界へやってきた。
スフィンもマルクエンと元の世界へ戻るまで休戦という形で一緒に行動している。
こちらの世界で傷を癒す能力を手に入れたスフィンは聖女と呼ばれていた。本人は気に入っていない様だが。
最後に黒髪の男マッサは、聖域と呼ばれる街『チター』の冒険者ギルドでギルドマスターをしていた。
勇者の護衛という形で一緒に旅をしている。
王都へは歩いて明日には着く予定だ。
夕暮れが近くなり、近くの宿場町に着いた一行。
「今日はこの町で一泊しますかー」
マッサはうーんと伸びをして言う。
「そうですね」
マルクエンは体力があるので疲れてはいなかったが、仲間の事も思い、休息を取ることにした。
「宿屋は手配しておくんで、街でも見て下さいや」
「あぁ、頼んだ」
スフィンも宿屋の確保はマッサに任せ、散策でもするかと周りを見渡す。
「何か名産物でも食べたいですね」
「イーヌの騎士は食い物の事しか考えられないようだな」
スフィンは相変わらずマルクエンに厳しい。
「ははは、それでは別行動でもしますか?」
「そうだな」
言ってスフィンはスタスタと歩いていく。
「ラミッタ、貴様はイーヌの騎士と共に行くのか?」
振り返り、後ろを付いてこないラミッタを見て不機嫌そうに言うスフィン。
「あ、いえ、今行きます! こんなド変態卑猥野郎と一緒に行くはずないじゃ無いですか」
小走りでスフィンの後を付いていくラミッタ。一人取り残されたマルクエンは寂しげに街を散策した。
「いらっしゃいませー、名物のくるみのせんべい焼きはいかがでしょうかー?」
香ばしい匂いに誘われてマルクエンは店の前まで立ち寄る。
「いらっしゃいませー! 冒険者のお兄さん! くるみのせんべい焼きですよー?」
「どうも、美味しそうですね」
「ぜひぜひ、買って行って下さい!」
マルクエンは大きなくるみのせんべいを仲間の分も購入した。
途中、食べ歩きをする。細かく砕いてあるくるみの食感と、醬油の塩加減。確かに美味だ。


