別の形で会い直した宿敵が結婚を迫って来たんだが

「勇者様、お風呂になさいますか? 食事になさいますか? それとも、宴?」

 村娘の言う食事と宴の違いは何だろうと思ったが、スフィンは答える。

「まずは汚れを落としたいな。私は風呂に入りたい」

「俺はどっちでもいいっすよー」

 マッサの意見にマルクエンもラミッタも同調した。

「それでは野風呂の準備が整っておりますんで、こちらへ」

 村の外れまで行くと、マルクエン達には珍しい植物。竹で囲われた立派な野風呂があった。

「男の方はこちら、女の方はこちらですべ」

「宿敵、覗いたら殺すから」

「なっばっ、そんな事はしない!!」

 焦るマルクエンを見て不思議そうにするマッサ。

「どーかしらねー。あなた前科あるからねー」

「ぜ、前科って!! あれは不可抗力だ!!」

「マルクエンさん真面目そうに見えてやりますねぇ!」

 マッサが笑いながら言うと、マルクエンは顔を赤くしていた。

「ふん、所詮イーヌの騎士はそんなもんだ」

「っぐ……」

 スフィンにも言われ、言葉に詰まるマルクエン。

 男女別々の入り口から中へと入る。

 重い武具を脱ぎ捨て、タオル一枚になり、マッサは筋骨隆々のマルクエンを見て言葉を掛けた。

「マルクエンさん、カラダ仕上がってますね。いよっ! 筋肉のかんぴょう生産量一位!」

「なんですかそれは」

 マッサに訳の変わらない事を言われ、苦笑して流すマルクエン。

「それじゃ行きますかー」

 沈みかけの日に照らされた大きな野風呂が出迎えてくれた。

「お、ちゃんとシャワーまで完備されている。小さな村なのに、おもてなしの心が凄いっすねー」

 よくシャワーで体の汚れを落としてから野風呂に入るマルクエンとマッサ。

「くぅー……。身に沁みますね」

 心地よい温度の湯にマルクエンは上機嫌になった。

「いやー、ホントっすね。これで美女が一緒に入ってくれれば……」

「ハハハ、マッサさんらしい……」



 その野風呂の隣では、正しく見た目は美女二人が浴場に入ってきた。

「まさかお前と裸の付き合いをする時が来ようとはな」

「恐れながら、私は後で入りますので。スフィン将軍はお先に……」

 ラミッタが言うとははっとスフィンは笑う。

「そう固い事を言うな」

「そうですか……。わかりました」

 スフィンに言われ。二人ともシャワーを浴び始めた。

 ラミッタは艶やかな長い栗色の髪を解かしながらよく洗う。

 スフィンもその透き通るような金髪のホコリや汚れを石鹸でよく洗い流していた。

 湯に浸からないよう髪を纏めると、スフィンは足先を野風呂に入れる。

「良い湯だな」

 一言そう言うと、全身を湯船に沈めた。

「ラミッタ、早く来い」

「はい、ただいま」

 ラミッタも湯に入ると、心地よさに身を委ねる。



「心地良いな」

 スフィンは満足気な顔をし、目を閉じて湯を感じていた。

「えぇ、とても……」

 ラミッタもそう返してふぅーっと息を吐く。

 そんな、(つか)の間の緩やかな時間を邪魔しようとする者が居た。




「よし、そろそろ良い頃合いかな?」

 湯に浸かって体も温まり、マッサはそろそろ出るのかと思ったマルクエン。

「もう出ますか?」

「えぇ、そうしましょうか」

 そう言ってザバッと湯から上がり、マッサは野風呂を隔てている竹壁へ歩き始めた。

「ま、マッサさん? 出口はあっち……」

「シー、静かにっす」

 マッサは竹壁をくまなく見て回り、ガックリと肩を落とし小声で言う。

「女性陣がお風呂を上がるのを待つのは竹壁の前で待つのがベストですぜ!」

「な、何を……」

「その間……。竹壁の隙間に目を近づけるのはいけないことっすかねぇ!?」

「な、何を言っているんですか!?」

「だって、隣には美女!! これが覗かずにいられるかってんですぜ!!」

 マルクエンは思わず呆れていた。

「ダメですよ、マッサさん」

「でもマルクエンさんは覗いた事があるんでしょ?」

「い、いや、あれは事故で……」

「随分と騒がしいな」

 隣から突然聞こえるスフィンの声に、マッサとマルクエンはドキリとし、固まる。

「あ、あー。スフィンさん?」

「貴様らのやろうとしている事など大体見当(けんとう)がつく。この竹を超えてみろ、命は無い」

「そ、そんなことねぇ、するわけないでしょうねぇ!? ねぇマルクエンさん!?」

「あっ、あぁ、えぇ!! まさかそんな事……」

 男湯から聞こえる声に、ラミッタは赤い顔を湯船に沈めて『ド変態卑猥野郎』と呟いた。



 先に湯から上がったマルクエンとマッサは女湯の二人を待つ。

 村人から渡された地酒をマッサは飲み、マルクエンは牛乳を飲んでいた。

「待たせたな」

 スフィンとラミッタが風呂から上がり、男どもの元へと歩く。

「命拾いしたな」

「し……、失礼ですね覗きの証拠は? 覗き? 命拾い? 何の事です?」

「私は何もそこまで言っていないのだが。まったく」

 呆れるスフィン。そんな四人に村人から声が掛かる。

「皆様、宴の準備ができましたんで、ご案内しますべ」

「おぉ、かたじけない」

 腹が減っていたマルクエンは笑顔でそう言いながら、村人の後を付いていく。

「ほ、ほら、宴ですって! 行きましょう!」

 マッサも焦りながらマルクエンの後を追いかける。

「やれやれだな」

「男って奴はこれだから困りますね」


 村の中心では大きな焚火。所々に小さなかがり火が設置されている。

「祭りの時にやる事なんですが、今日は勇者様が来たお祭りですべや」

「そんな、ここまでして頂かなくても……」

 気が引けたマルクエンは照れくさそうに頭を掻いていた。

「何をおっしゃる! 勇者様が来ただけでもめでてぇのに、勇者様は村の恩人ですべ!!」

「随分と手厚い歓迎だな」

 スフィンは腕を組みながらフンっと笑う。