別の形で会い直した宿敵が結婚を迫って来たんだが

「ラミッタ! 多少の怪我は私が治してやる。加減しすぎるな!」

「承知しました。スフィン将軍!!」

 ラミッタは風魔法を使い、竜巻を起こした。

 巻き込んだ砂粒が目くらましになり、アザミヤの白い皮膚に擦り傷ができる。

「アザミヤ……」

 タカセは小声で彼女の名前を呟く。何もできない自分がもどかしい。

「今よ、宿敵!」

「あぁ!!」

 マルクエンは下から剣を振り上げ、アザミヤの赤黒い剣を弾く。

 魔法の剣の為、手元から飛びはしなかったが、体制が崩れる。

 逆に剣を手放したのはマルクエンの方だった。自由になった両手でアザミヤのペンダントを掴む。

「ふんっ!!」

 一気に両腕に力を込めてペンダントの鎖を引きちぎった。

 ふっとアザミヤの力が抜けて膝から崩れ落ちる。

「終わった。みたいね」

 ラミッタは剣の切っ先をアザミヤに向けたまま地面へ降り立つ。

「アザミヤ!!」

 タカセは無理をしてアザミヤの元へ駆け寄った。

 だが、足が治ったばかりである彼の歩みは遅い。先にスフィンがアザミヤの元へ向かい治療をした。

「肉体がボロボロみたいだな。無理もない。あんな魔力で無理やり体を動かされればな」

 目を閉じたまま動かないアザミヤだったが。

「大丈夫か!? 大丈夫か!! アザミヤ!!」

 タカセの声を聴いて、うっすらと目を開ける。ラミッタとマルクエンは念の為、警戒して武器を構えたままだ。

「……タカセ?」

 アザミヤが目を開けると空が広がっていた。

「サーチしてみたけど、あの禍々しい魔力は抜けきっているわね。ま、多分大丈夫でしょ」

 ラミッタの言葉を聞いて、タカセは地面に座り、アザミヤを抱きかかえる。

「アザミヤ!! 大丈夫か!?」

「あれ……。私は……」

 そんな時、上空から声が聞こえてきた。

「いやー、失敗失敗」

 そこに居たのは、長いくすんだ金髪にシルクハットを被った奇術師の魔人。『ミネス』だ。

「お前はっ!!」

 マルクエンが空を見てそう言うと同時に、ラミッタが空へと飛び立った。

「今日こそ逃がさないわ!!」

「待ってよー、今日は喧嘩しに来たんじゃないんだよー」

 丸く分厚い防御壁を展開し、その中に(こも)るミネス。ラミッタは斬り付けてみるも剣は弾かれた。

 マルクエンも光の刃を飛ばし、真っ二つにしようとするが、防御壁ごと縦横無尽に飛び、ひらりひらりと(かわ)す。

「もー、何でこう人間は喧嘩っ早いのかなー」

「どうせあのペンダントもアンタの仕業でしょ?」

「ご明察ぅー!! 300ミネスポイントあげちゃう!」

 ケラケラとミネスは笑う。

「今日は実験してみただけだよー。箱はそこの厄介者が壊しちゃうからね」

 スフィンを指さしてミネスは苦々しく言った。

「でもさー。我ながら僕の作るアイテムって凄くない? その辺の村娘でもこんなに強くなっちゃうんだもん」

「二度と作れないようにしてあげるわ」

 ラミッタは至近距離で炎を出し、球状の防御壁を包む。

 そのまま三十秒ほど焼き続け、炎を止めると、そこには何も無かった。




「あら、死んだかしら?」

 これぐらいで魔人が死ぬわけない事を知っているラミッタは、わざとらしく言う。

「死ぬわけないじゃーん! どう? 脱出ショーだよ?」

「1エンの価値も無いわね」

「言ってくれるねー」

 ミネスは球を取り出してジャグリングを始めた。

「まぁ今日はこの辺でー」

 水色と赤色の球をぶつけると、ボンっと大きな音がして一気に煙が辺りを包み込む。

 ラミッタが風魔法で煙を吹き飛ばすが、それより早く飛んで逃げて行ってしまった。

「またアイツ、厄介な物作ってくれたわね」

 剣を仕舞うと、ラミッタは片目を閉じて、ふぅっとため息を漏らした。

「アザミヤ……。無事で良かった……」

 彼女の上半身を抱きかかえながらタカセは言う。

「タカセ、私は……。私はっ……」

 自分でもどんな感情なのか分からないが、アザミヤは泣いてしまっていた。

「事件が片付いたなら行くぞ。魔物を狩らねばならん」

 そう言ってスフィンはタカセとアザミヤに背を向けて歩き始める。

「そうですね、将軍」

「あのお二人は良いのか!?」

 マルクエンは心配そうに横目で見ていたが。

「良いから来なさい」

 ラミッタに言われ、後ろ髪を引かれる思いでその場を後にする。

 勇者も聖女も消え、残された二人は言葉を交わす。

「タカセ、私の本音聞いちゃったよね。私、最低だよね」

「そんな事はない。お前はずっと足を失った俺の世話をしてくれた」

「その原因だって……。私たちを守ろうとして、それで……」

 アザミヤは目に一杯の涙を貯めて言う。

「違う。俺が不甲斐ないだけだった」

「だけどっ!!」

 アザミヤの言いかけた言葉は、タカセによって遮られた。

「お前の気持ち、聞けて嬉しかったよ」

「だけど、だけど!! 私にタカセを好きになる資格なんてないっ!!」

「アザミヤ。俺も自分の気持ちに嘘はつかない。俺は多分……。いや、お前の事が好きだ」

 思わぬ言葉に固まるアザミヤ。

「でもな。俺は冒険者の夢も諦めきれない。だから、答えはもう少し先延ばししてもいいか?」

 笑顔を向けてタカセは言った。色々と言いたい言葉があったが、詰まってしまったアザミヤは一言だけ頷いて返す。

「うん!!」


 村長に事の経緯(いきさつ)を説明し、魔人がらみの事に巻き込んでしまったことを詫びるマルクエン。

「私達が訪れた事でご迷惑をお掛けしました」

「いえ、謝らねえで下せえ勇者様!!」

「せめて、明日の出発までの余った時間で周辺の魔物でも駆除させて下さい」

「怪我人を治してくだすった上に、魔物まで……。大したお礼はできませんが、宴を準備しておきますので」




 村はずれでラミッタは魔物を呼び寄せる魔法を使い。四人で狩りを行っていた。

 といっても、ラミッタとマルクエンには準備運動にすらならないぐらいだ。

 スフィンも涼しい顔をしていたが、久しぶりに振るう剣にどこか楽しそうだった。

「やっぱ、半端ねぇっスね」

 マッサは仮にもギルドマスターだったが、圧倒的な力で暴れる三人を見て感嘆している。

「あらかた倒し終えたわね」

「なぁ、ラミッタ。あの二人は大丈夫なのだろうか?」

「何言ってんの、大丈夫よきっと」

 日が暮れ始め、いい頃合いかと四人は村へと戻ることにした。

 魔物を狩った事を感謝され、宴が用意されているようだ。