別の形で会い直した宿敵が結婚を迫って来たんだが

「なるほどなぁ、オラ達には想像もつかねー話ですが、勇者様達は村の恩人だ。できる限りのことはさせてほしいべや」

 マルクエン達は村長に魔人と戦った事、試練の塔の事を話し終えていた。

「助かります。それで、一つお伺いしたいのですが、先ほどの大勢居た怪我人は……」

「あぁ、最近は魔物がやたらと湧いてましての。冒険者も腕自慢の村人もあのざまですべ」

「なるほど、魔物の活性化ねぇ……。どこも一緒か」

 マッサが珍しく真剣な顔をして話を聞いている。

「魔王が復活してから魔人やら魔物やら、世界は大騒ぎってわけですわ」

 やれやれと大げさに手を上げてマッサは誰かに聞かせるように言った。

「王都に着いたら増援を要請してみましょう。我々も目に見える魔物は討伐しておきますので」

「おぉ、頼もしい! 流石は勇者様だべや!!」

「すみません!! 俺にもそれ、やらせてください!!」

 扉がガラリと開き、そこに立っていたのはスフィンに足を治療された男だ。

「タカセ!!」

 名を呼ばれた男は部屋に入り、詫びの言葉を入れ始めた。

「勝手に盗み聞ぎしたことはすみません!! でも、でも俺は、冒険者として生きていきたいんです!!」

「タカセと言ったな。お前はまず自分の体を治すことに専念しろ」

 スフィンは冷たく言い放つ。

「俺の足は治りました! 聖女様に治して頂きました!!」

「いや、まだ完全に治ってはいないだろう。現に歩き方がおぼつかない」

 指摘されて言葉に詰まるタカセだったが、諦めようとしない。

「今はまだ、感覚が慣れませんが。その内きっと治ります!!」

「なら、治ってからにすると良い。命を落とすぞ」

 彼は何も言い出せなくなり、村長は強めに注意をする。

「タカセ、今日はもう帰れ」

 ぐっと唇を噛み、タカセは頭を下げて扉を閉めた。

「村の若いモンが失礼をしますた」

「いえ、彼の気持ち。分からなくはありませんよ」

 マッサは言って手を頭の後ろで組む。



 失意のままタカセはフラフラと道を歩いていた。

「タカセ!!」

 アザミヤがそんな彼を見つけ、長い黒髪を乱して駆け寄る。

「タカセ、何かあったの!?」

「別に……」

 心配そうに見つめるアザミヤだったが、タカセにとってそれがうっとおしい。

「でも……」

「お前は俺の親かなんかか? 別に何でもないって言ってるだろ!!」

 つい言葉で八つ当たりをしてしまった。瞬間、我に返りタカセはアザミヤを見る。

「ごめん、私、しつこかったよね」

 そう言って反対方向に歩いて行ってしまうアザミヤ。

 その行動でタカセは治った足でダンっと地面を蹴る。

「ちくしょう、何なんだよ!!」




 アザミヤは歩いていたが、段々と小走りに、あてもなく村はずれまで来てしまった。

「ちょっとお嬢さん?」

 声を掛けられてビクリとする。声の主を探すと、長いくすんだ金髪の女が立っていた。

「あ、あなたは?」

「ははっ、心配しなくてもいいさ。僕はただの行商人だよ。なんだか浮かない顔をしていたから声掛けさせて貰っただけさ」

 女と目が合う。アザミヤが金色の瞳を見つめた。

 その瞬間、自分の中で抑えていた感情が緩む気がし、止めどなく涙が溢れてくる。

「あらら、どうしたのかな? 僕で良ければそこに座って話聞くよ?」

 金髪の女は敷物(しきもの)()いて「こちらへどうぞ」とアザミヤと隣同士で座る。

 アザミヤはしばらく泣いていて話が出来なかったが、少し落ち着くと、話し出す。

「私には、幼馴染が居ました。彼は……。冒険者になるって言って小さいころから修行をしていました」

「そうなんだ」

「出発を控えていた日に、魔物が村を襲い。彼は戦ったのです。その時、片足を失いました」

「それはお気の毒に」

 泣きながらアザミヤは話し続ける。

「私のせいで、私を(かば)って、彼は冒険者の夢を失いました」

「そっかー、それは責任感じちゃうよね」

「でも、村に来た聖女様に足を治して貰って、彼は……。タカセはもう一度冒険者になるって……」

「良かったじゃん。嬉し泣きかな?」

 言葉ではそう言っていたが、金髪の女はアザミヤの心を見透かしていた。

「そうです、私良かったって……」

「嘘だね」

 金髪の女にそう言われ、思わずアザミヤは彼女の顔を見る。

「本当の事、話してみなよ」

 しばらく沈黙した後、またも女と目が合う、何だか心の奥にしまってフタをしておいた事を言わなければいけない気がした。

「私、私、最低な女なんです」

 開口一番に言ったのはそれだった。

「最低? 最低って言うと?」

「私、幼馴染が、タカセが好きだった。村から出てほしくなかった。だから、怪我したときは死んじゃうんじゃないかって思っていたけど」

 そこまで言うと、アザミヤは黙り、また覚悟して話す。

「怪我が治って、冒険者を諦めて。村に居てくれるのが嬉しかった。私がずっとそばに居てお世話できるのが嬉しかった」

 泣きながら続ける。

「私のせいで夢を諦めたのに、私のせいで失ったのに、それなのに私は心の底で嬉しいって思っちゃった」

 なりふり構わず「うわああああ」と声を荒げてアザミヤは涙を流す。

「私、最低だ。最低だ……」

「ううん、最低なんかじゃないよ」

 金髪の女は優しく言って笑顔を向ける。

「好きな人と一緒に居たいってのは普通の感情だよ」

「だ、だけど、私の場合は!!」

「ずっとお世話してた彼がどこかに行っちゃうのが怖いんだね?」

 その言葉にアザミヤは小さくこくりと頷く。

「よーし、出血大サービスだ!! この恋愛成就のお守りあげちゃう!!」

 金髪の女は懐から赤い宝石のペンダントを取り出した。

「えっ? で、でも」

「お金はいいよ。私は恋する女の子の味方だからね」

 そう言って金髪の女は顔を近づけアザミヤにペンダントを付けてやる。

「似合っているよ!! それじゃ僕はもう行かなくちゃ!!」

 金髪の女が立ち上がり、アザミヤも慌てて立つ。

「それ持ってればどうにかなるよ。頑張ってね、応援しているよ」

 金髪の女は手をひらひらと振って歩いて行ってしまった。