試練の塔までやってきた四人。ラミッタが先導して入ろうとするが。
「ちょっと、なにこれ!!」
分厚い魔法の防御壁が邪魔をして中に入れない。
スフィンがその入口に触れると、何の抵抗もなく中に入れる。
「試練の塔に……、入れるのは……、人生で一度だけだ……」
マッサが絞りながら声を出すと、スフィンは頷く。
「魔人は消えましたが、魔物の気配は向かってきています。スフィン将軍!!」
「わかった」
スフィンはマッサを担いで中へと入る。
二人が塔の中へ入ると、門は固く閉ざされた。
赤い絨毯の上にマッサを横にさせるスフィン。
「しっかりしろ、傷は浅い」
「大丈夫です……。これは無理な傷だってこと、分かっています……」
スフィンにとっては戦場で何度もあった。既視感のあるやりとりだ。
「……、何か言いたいことはあるか?」
「はぁはぁ……。最後に女の子とイチャイチャ、いや、せめてキスぐらいしたい人生でした……」
本心なのか、心配させまいとしている軽口なのか、マッサは言う。
「そうか……」
次の瞬間、スフィンはマッサに覆いかぶさり。
唇を重ねた。
「なっ……」
「相手が私で悪かったな。これぐらい何度でもしてやる。だから生きろ」
マッサは穏やかな顔で気を失う。それと同時にスフィンは背後に気配を感じて剣を抜く。
「人の子よ。いや、スフィンよ。よくぞ参りましたね」
そこには端正な顔立ちの女が宙に浮かんで微笑んでいた。
「あ、あなたは」
「私はこの塔の女神。あなたに力を授けましょう」
スフィンは思わず地面に跪く。
「あなたには二つの内から一つを選んで頂きます」
「二つ……、ですか?」
そう言って女神を見上げると、ニコリと微笑む。
「一つは莫大な暴力。あなたの敵対している騎士マルクエンをも上回る力」
言葉を聞いてスフィンは目を見開く。奴をも上回る力を得れば、元の世界へ帰ったとしても、戦局をひっくり返せるかもしれない。
「そしてもう一つは、癒やしの力。どんな人間の怪我も病気も、寿命以外ならば癒せる力。そこに居るマッサも治せるでしょう」
続けられた言葉に、スフィンの胸の鼓動は更に早くなる。
「さぁ、選びなさい」
スフィンは葛藤した。
暴力を選べば国を助けることが出来るが、癒やしの力ならばマッサを助けることができる。
マッサはぼんやりとした頭のまま目が覚めた。体には痛む箇所がない。
目をしっかりと開くと上半身を起こして辺りを見渡す。
「起きたか」
頭の後ろからスフィンの声がし、そちらを振り向いた。
「これは……」
「私が手に入れた能力だ」
「能力……ですかい?」
マッサはキョトンとした顔で言う。
「人を癒やす能力だ。女神から力とこの能力どちらかを選べと言われてな」
「!? ま、まさか俺のために!?」
マッサの言葉にスフィンはそっぽを向いて答える。
「勘違いするな。負傷兵を治療できれば戦力が維持できる。これ程までに使える能力は無いからな」
スフィンの言葉を聞いて、マッサは「そうですかい」と笑っていた。
「そう言えば、俺、スフィンさんとキスしましたよね?」
突然の発言にスフィンは振り返って慌てだす。
「ばっ、わ、私がそんな事するわけないだろう!? 意識が朦朧として変な幻覚でも見たのだろう!!」
「そっかー……、幻覚かー……」
マッサは残念そうに呟く。
「この塔にはもう用はないな」
スフィンがそう言いかけた時、女神の声が二人の脳内に響く。
「そうそう、マッサ。あなたにも何か能力を差し上げねばなりませんね」
それを聞いて、待ってましたと言わんばかりにマッサの胸は高鳴る。
「あなたには、別の世界の勇者も持っていた能力を与えましょう」
「別の世界の勇者の能力……?」
「そうです」
何が来るんだと、勿体ぶらせる女神にマッサはソワソワとしていた。
「名付けて『ビンのフタをスッポーンと飛ばす能力』です」
「は?」
女神の言葉にマッサは何を言われたのか理解できない。いや、理解したくない。
「ですから、『ビンのフタをスッポーンと飛ばす能力』です」
「いや、何すかその能力!?」
マッサはツッコミを入れた。その後頭をかきむしる。
「別の世界の勇者はこの能力で世界を救いました」
「噓でしょ!! 絶対嘘でしょ女神様!?」
後ろではスフィンがクククと笑いを堪えていた。
「さぁ、行きなさい人の子よ! 世界を救うのです!!」
「そんな、もっと別の能力に……」
マッサの訴えも虚しく、女神の声は消えて、扉が開く。
「全然手応えないわね、準備運動にもならないわ」
塔の外では魔物を蹴散らしながらラミッタが呟く。
マルクエンも同じだった。マッサの心配もしながら、魔物を簡単に斬り捨てている。
その時、塔の扉が開いて、二人は振り返った。
塔の石畳をコツコツと音を鳴らして人が来る。
スフィンの隣を平然と歩くマッサを見て驚くラミッタとマルクエン。
「マッサさん、大丈夫ですか!?」
マルクエンが声をかけると、ニッと笑うマッサ。
「大丈夫っす、スフィンさんに治してもらいました!」
「治したって、どういう事よ!?」
ラミッタの問いにスフィンが口を開く。
「私はこの塔で癒す力を手に入れたらしい」
「癒す力……?」
ピンと来ていないラミッタだったが、あの重症のマッサの傷が治っているのが何よりの証拠だ。
「そして、この男はククッ……『ビンのフタをスッポーンと飛ばす能力』だったか? フフッ……、それを手に入れたらしい」
笑いを堪えながら言うスフィンにマッサは動揺する。
「ちょ、ちょー!! スフィンさん、言わないで!! それは言わないで!!」
「な、何ですか? その能力は」
困惑するマルクエンだったが、会話を遮ってマッサは言う。
「そ、そんな事よりも!! スフィンさんも無事能力を手に入れたんですから王都に向かいましょう!!」
荷物を捨て、馬も逃げ出した為、歩きの旅になるが、文句を言っていられない。
「近くの村で物資を集めましょうや。案内しますぜ!」
「その前に休憩したいんだけど……」
ラミッタが言うと、「そうでした」とマッサは頭を掻く。
夜通しで塔に向かい、戦い、疲労はだいぶ溜まっていた。
すっかり夜が明けて日も登っている。
「手持ちの食料もありませんし、どうしたものか……」
「これだから騎士のおぼっちゃんは……。森があれば食べ物ぐらいなんとかなるわよ」
「そうだな、それでこそルーサの軍人だ」
シュンとするマルクエン。四人は食料調達のために近くの森へと向かった。
「ちょっと、なにこれ!!」
分厚い魔法の防御壁が邪魔をして中に入れない。
スフィンがその入口に触れると、何の抵抗もなく中に入れる。
「試練の塔に……、入れるのは……、人生で一度だけだ……」
マッサが絞りながら声を出すと、スフィンは頷く。
「魔人は消えましたが、魔物の気配は向かってきています。スフィン将軍!!」
「わかった」
スフィンはマッサを担いで中へと入る。
二人が塔の中へ入ると、門は固く閉ざされた。
赤い絨毯の上にマッサを横にさせるスフィン。
「しっかりしろ、傷は浅い」
「大丈夫です……。これは無理な傷だってこと、分かっています……」
スフィンにとっては戦場で何度もあった。既視感のあるやりとりだ。
「……、何か言いたいことはあるか?」
「はぁはぁ……。最後に女の子とイチャイチャ、いや、せめてキスぐらいしたい人生でした……」
本心なのか、心配させまいとしている軽口なのか、マッサは言う。
「そうか……」
次の瞬間、スフィンはマッサに覆いかぶさり。
唇を重ねた。
「なっ……」
「相手が私で悪かったな。これぐらい何度でもしてやる。だから生きろ」
マッサは穏やかな顔で気を失う。それと同時にスフィンは背後に気配を感じて剣を抜く。
「人の子よ。いや、スフィンよ。よくぞ参りましたね」
そこには端正な顔立ちの女が宙に浮かんで微笑んでいた。
「あ、あなたは」
「私はこの塔の女神。あなたに力を授けましょう」
スフィンは思わず地面に跪く。
「あなたには二つの内から一つを選んで頂きます」
「二つ……、ですか?」
そう言って女神を見上げると、ニコリと微笑む。
「一つは莫大な暴力。あなたの敵対している騎士マルクエンをも上回る力」
言葉を聞いてスフィンは目を見開く。奴をも上回る力を得れば、元の世界へ帰ったとしても、戦局をひっくり返せるかもしれない。
「そしてもう一つは、癒やしの力。どんな人間の怪我も病気も、寿命以外ならば癒せる力。そこに居るマッサも治せるでしょう」
続けられた言葉に、スフィンの胸の鼓動は更に早くなる。
「さぁ、選びなさい」
スフィンは葛藤した。
暴力を選べば国を助けることが出来るが、癒やしの力ならばマッサを助けることができる。
マッサはぼんやりとした頭のまま目が覚めた。体には痛む箇所がない。
目をしっかりと開くと上半身を起こして辺りを見渡す。
「起きたか」
頭の後ろからスフィンの声がし、そちらを振り向いた。
「これは……」
「私が手に入れた能力だ」
「能力……ですかい?」
マッサはキョトンとした顔で言う。
「人を癒やす能力だ。女神から力とこの能力どちらかを選べと言われてな」
「!? ま、まさか俺のために!?」
マッサの言葉にスフィンはそっぽを向いて答える。
「勘違いするな。負傷兵を治療できれば戦力が維持できる。これ程までに使える能力は無いからな」
スフィンの言葉を聞いて、マッサは「そうですかい」と笑っていた。
「そう言えば、俺、スフィンさんとキスしましたよね?」
突然の発言にスフィンは振り返って慌てだす。
「ばっ、わ、私がそんな事するわけないだろう!? 意識が朦朧として変な幻覚でも見たのだろう!!」
「そっかー……、幻覚かー……」
マッサは残念そうに呟く。
「この塔にはもう用はないな」
スフィンがそう言いかけた時、女神の声が二人の脳内に響く。
「そうそう、マッサ。あなたにも何か能力を差し上げねばなりませんね」
それを聞いて、待ってましたと言わんばかりにマッサの胸は高鳴る。
「あなたには、別の世界の勇者も持っていた能力を与えましょう」
「別の世界の勇者の能力……?」
「そうです」
何が来るんだと、勿体ぶらせる女神にマッサはソワソワとしていた。
「名付けて『ビンのフタをスッポーンと飛ばす能力』です」
「は?」
女神の言葉にマッサは何を言われたのか理解できない。いや、理解したくない。
「ですから、『ビンのフタをスッポーンと飛ばす能力』です」
「いや、何すかその能力!?」
マッサはツッコミを入れた。その後頭をかきむしる。
「別の世界の勇者はこの能力で世界を救いました」
「噓でしょ!! 絶対嘘でしょ女神様!?」
後ろではスフィンがクククと笑いを堪えていた。
「さぁ、行きなさい人の子よ! 世界を救うのです!!」
「そんな、もっと別の能力に……」
マッサの訴えも虚しく、女神の声は消えて、扉が開く。
「全然手応えないわね、準備運動にもならないわ」
塔の外では魔物を蹴散らしながらラミッタが呟く。
マルクエンも同じだった。マッサの心配もしながら、魔物を簡単に斬り捨てている。
その時、塔の扉が開いて、二人は振り返った。
塔の石畳をコツコツと音を鳴らして人が来る。
スフィンの隣を平然と歩くマッサを見て驚くラミッタとマルクエン。
「マッサさん、大丈夫ですか!?」
マルクエンが声をかけると、ニッと笑うマッサ。
「大丈夫っす、スフィンさんに治してもらいました!」
「治したって、どういう事よ!?」
ラミッタの問いにスフィンが口を開く。
「私はこの塔で癒す力を手に入れたらしい」
「癒す力……?」
ピンと来ていないラミッタだったが、あの重症のマッサの傷が治っているのが何よりの証拠だ。
「そして、この男はククッ……『ビンのフタをスッポーンと飛ばす能力』だったか? フフッ……、それを手に入れたらしい」
笑いを堪えながら言うスフィンにマッサは動揺する。
「ちょ、ちょー!! スフィンさん、言わないで!! それは言わないで!!」
「な、何ですか? その能力は」
困惑するマルクエンだったが、会話を遮ってマッサは言う。
「そ、そんな事よりも!! スフィンさんも無事能力を手に入れたんですから王都に向かいましょう!!」
荷物を捨て、馬も逃げ出した為、歩きの旅になるが、文句を言っていられない。
「近くの村で物資を集めましょうや。案内しますぜ!」
「その前に休憩したいんだけど……」
ラミッタが言うと、「そうでした」とマッサは頭を掻く。
夜通しで塔に向かい、戦い、疲労はだいぶ溜まっていた。
すっかり夜が明けて日も登っている。
「手持ちの食料もありませんし、どうしたものか……」
「これだから騎士のおぼっちゃんは……。森があれば食べ物ぐらいなんとかなるわよ」
「そうだな、それでこそルーサの軍人だ」
シュンとするマルクエン。四人は食料調達のために近くの森へと向かった。


