別の形で会い直した宿敵が結婚を迫って来たんだが

 昼前頃にスフィンは目が覚めた。酒を飲んで寝るなんていつぶりだろうか。

 少し痛む頭に、酔い覚ましの魔法を掛けて上半身を起こす。

「って、なっ、なあああああ!?」

 隣で寝ているマッサに気が付いてスフィンは飛び起きた。

「な、何故貴様がここに居る!?」

 その大声でマッサは目を覚ます。寝不足のクマができており、フラフラしていた。

「おはようございます。何故ってスフィンさんが付き合えって……

「私がそんな事言うわけ無いだろう!!!」

「理不尽だ!!! 言いましたよ!!! 軍人としての心得を教えるって説教が数時間!!」

 説教と言われ、あぁ確かに酒を飲むとよくそんな事をしていたなとスフィンは思う。

「そ、そうか。それでも同じベッドで寝る必要は無いだろ!!」

「お互い体力が尽きてバッタリですよ。多分」

 自分に責があるので、あまり問い詰めることが出来ないスフィン。

「……まぁいい」

 それだけ言って立ち上がり、部屋を出た。




「スフィン将軍!! おはようございます!!」

 ラミッタが敬礼をして一階に降りてきたスフィンを迎える。

「ラミッタか、どうやら寝過ぎたようだ」

「あのー、おはようございます」

 マルクエンもおずおずと挨拶をするが、ジッと見つめられ、目線をフンッと逸らされるだけだった。

「それじゃ、朝飯っていうか昼飯でも食べましょうかね」

 ふわーっと眠そうなあくびをしながらマッサも一階に降りてきた。




 四人は椅子に座り、食事をする。

「とりあえず。この後は冒険者ギルドに行って、国からの伝令待ちっすねぇ」

 ゆで卵の殻を()きながらマッサが言う。

「そうか、分かった」

 スフィンは短く言うと、また沈黙が流れた。

「スフィン将軍はその……。この国で勇者になれーって言われたらどうします?」

「答えは決まっている。ルーサへ帰れるならば私はなんだってするさ」




 昼食を終えた一行は冒険者ギルドに向かって歩き始める。

 その途中で、慌ただしく走るギルドのスタッフと遭遇した。

「あっ、ギルドマスター!! 向かおうと思っていたんですよ!!」

「どうした? 俺のことが恋しくなっちまったか?」

「それは無いですね」

 冷たく言われるマッサ。ギルドのスタッフは「そんなことよりも!」と言葉を続ける。

「国から、いや、国と勇者マスカル様からの伝令が届きました!」

 その言葉に一同はどんな内容かと少し身構える。

「えーっとですね。新たな異世界からの来訪者を連れ、試練の塔に挑めるか試すようにとのことです!」

「まずは王都に行く前に勇者として相応しいか試せって事か」

 マッサが言うと、マルクエンも頷く。

「そうみたいですね」

「私達が試練の塔に挑んだ時、魔人の妨害があったわ。今回も、もしかしたら……」

 ラミッタがそう口し、マッサは考えた。

「ある。と考えた方が間違いなさそうですねぇ」

「今度は私とラミッタが護衛をします」

「敵国の騎士に守られるほど落ちぶれてはいない」

 スフィンが腕を組んで発言し、マルクエンはしょんぼりマルクエンになる。

「まぁいいや。旅の準備だ!! それに仲良くしましょうや!!」

 マッサが笑いながら言い。皆を見た。

「それじゃ、俺はギルドで馬車の手配と、他に手続きを済ませてきますわー。皆さんは各自必要なものを買っておいて下さいな」

「必要なものか」

 スフィンはうーんと考えてみる。

「小さな街ですが、旅人用に旅の道具の品揃えは良いのでね!」

「よし、分かった。行くぞラミッタ」

「え? あっ、えぇ、はい!」

 いつも買い物はマルクエンと一緒だったので、一瞬ポカンとしたラミッタ。

「まさか、私よりもイーヌの騎士と買い物がしたいと?」

「め、滅相もありません!! こんなド変態卑猥野郎なんて知りません!」

 しょんぼりマルクエンは余計にしょんぼりとしていた。




 買い物も終わり、マルクエンとスフィン達はギルドの前に集まる。

「いやー、お待たせしました。それじゃ行きましょうか!」

 扉を開けて出てきたマッサはニコニコ笑って言った。

 マッサの後を付いて街を出る三人。

「そういや、マルクエン様とラミッタ様に聞きたかったんですが、試練の塔とはどんな場所だったんですかい?」

 その質問に答える前に、かねてから思っていた事をマルクエンは告げた。

「そのー。様付けで呼ばなくても大丈夫ですよ。これから一緒に旅をするのですし」

「だけど、流石に呼び捨てって訳にもいかねーしなー。マルクエンさんとラミッタさんって呼ばせてもらうぜ!」

「そうですね、それで良いです」

 勇者と距離が近くなった気がして、マッサも上機嫌だ。

「それで、試練の塔っすよ! どんな所なんですかい?」

「どんな所かと言っても……。本当に不思議な所でした。無限に続く階段に動く石像。塔の中なのに大自然が広がったりと」

「そうなんすか、やっぱ試練の塔ハンパねぇですねー」

 そこで口を挟んだのは意外にもスフィンだった。

「信じられんな。それにマッサ、貴様やけに試練の塔とやらを知りたがるな」

「えぇまぁ。冒険者の憧れなんでね。俺も冒険者の端くれですから」

「端くれっていうか、ギルドマスターよね?」

 ラミッタがツッコミを入れると、またハハハと笑い出した。




 街の外には、マルクエン達が乗ってきた馬車と、手配されたもう一台の馬車が用意されている。

「それじゃ、試練の塔目指してレッツゴー!」

 マルクエンが運転する馬車にはラミッタが、マッサの馬車にはスフィンが乗っていた。

 馬の体力を考えて別々に乗ることにしたのだ。

 ガラガラと馬車が引かれ、途中何回か休憩を挟むと、あたりは夕日で赤く染まっていく。

「それじゃ、野営の準備ですかね―」

 手際よくテントを立てるマルクエンとラミッタ。

 ラミッタは軍事訓練で慣れていたが、そういった事を配下に任せていたマルクエンもこちらの世界に来てすっかり慣れてしまっていた。

「料理は俺に任せて下さいな」

「私も手伝おう」

 手持ち無沙汰なスフィンはマッサの元へと歩く。

「よし、それじゃ初めての共同作業といきましょうか」

「気持ち悪い事を言うな、気持ち悪い」

「そんな二回も言わなくても……」