別の形で会い直した宿敵が結婚を迫って来たんだが

「それじゃカンパーイ!」

 マッサが酒の入ったグラスを上に掲げると、ギルドに居た冒険者からも乾杯の音頭が返ってきた。

「まぁまぁ、スフィンさんもそんな難しい顔しないで。美人が台無しだぜ?」

「ふん、うるさい」

 そっぽを向いてスフィンはワインを口にする。

「……中々、美味いワインだな」

 素直な感想を言ったスフィン。気を良くしたマッサは更に笑顔になった。

「そうでしょそうでしょ? 料理も沢山あるからドンドンどーぞ!」

 冒険者向けの味の濃い料理にマルクエン以外の三人は酒が進む。

 やがて、ラミッタは頬を紅潮させ、スフィンも長い金髪を少し乱して酔っていた。

「そうだ! いい感じに酔ってきましたし、王様ゲームでもやりませんか?」

 マッサがニヤリと笑って言うと、スフィンは顔をガバっと上げる。

「王国? イーヌ王国は潰す!!!」

「いやいや、王国じゃなくて、王様」

「王の首は取る!!」

 こりゃダメそうだなと、マッサは笑っていたが、マルクエンは複雑な気持ちだ。

「それじゃアレですか? 恋バナでもします?」

 マッサがニヤニヤと笑いながら口にする。マルクエンは牛乳を吹きそうになり、ラミッタは顔を更に赤くした。

「なーにが恋バナだー? 私は軍人になった時から女としての幸せは捨てた」

 スフィンがフラフラになりながらも言うと、ラミッタも頷いた。

「それに……。私の手はもう血に染まっている。こんな手で赤子を抱くことは出来ない」

「そうっすか? 俺、そういうの気にしないっすけどね」

 そう言われ、スフィンはマッサをジッと見つめる。

「何すか? 何すか? もしかして脈あり? いやー、モテる男はつら」

「いや、仮に軍人でなくともお前は無いな」

「あびゃー!!!」

 マッサは撃沈し、ショックを受けて大声を出した。

 そんなスフィンの隣で、ラミッタは何だかシュンとしている。

「どうしたラミッタ?」

「な、何でもないわよ!!」

 察したマッサが助け舟を出してやることにした。

「マルクエン様は、好きになった相手が軍人だったら気にします?」

「えっ、わ、私ですか? 私も気にしないですけど……」

「ふ、ふーん」

 ラミッタはそっぽを向いてマルクエンの言葉を聞く。

「ふにゃー、もう飲めない……」

 ラミッタは酔ってふにゃふにゃになり、その隣でスフィンはグビグビワインを飲んでいた。

「何だ、だらしないぞラミッタ」

 そんな事を言うも、スフィンも顔が真っ赤だ。

「まぁまぁ、お水でも飲んで」

 マッサが言うも、ラミッタは泥酔し、眠ってしまった。

「えーっと、そろそろお開きですかねー」

「ラミッタは私が宿まで運んでおきますよ」

 マルクエンは立ち上がり、いつぞやの日ぶりにラミッタをお姫様抱っこする。

 そんな様子を訝しげにスフィンは見ていたが、何も口にすることは無かった。

「それじゃウチの宿まで行きましょうか」

 スフィンは立ち上がるが、フラフラとしている。

「スフィンさん。肩でも貸しましょうか?」

「その必要はな……」

 そこまで言いかけてスフィンはよろめく。思わずマッサは「おっと」と言いながら肩を掴んだ。

 支えられながら千鳥足でスフィンは宿まで何とか歩く。夜空が優しく四人を照らしていた。

「それでは私はラミッタを運んでいきますので」

「うっす、頼みましたよマルクエン様!!」

「それじゃスフィンさん。お部屋まで行きますよー?」

 マッサは酔いつぶれたスフィンを部屋まで運び、ベッドに寝かせた。

 改めてまじまじと見ると、長いキラキラと輝く金髪に、大きな胸。それに美しい顔立ちと、美人だなとマッサは再認識する。

「それじゃ、いい夢を」

 そう言って部屋を出ようとするマッサの腕をスフィンは掴む。

「なっ!?」

 びっくりして声を上げるマッサにスフィンは潤んだ瞳で言う。

「私を一人にするな……」

「な、ななっ」

 マッサは思わず胸がドキドキとし、普段の掴みどころの無さを消してしまう。

「ど、どうしたんですかいスフィンさん!?」

「私を一人にするな……。しないでくれ……」

 ふぅーっと深呼吸をしてマッサは言う。

「わかりましたよ」

「マッサ。今夜は寝かせないぞ……」

「なっ!? それってどういう……」

 何かを期待するマッサ。

「私に付き合え」

「わかりました。(おとこ)マッサ、据え膳食わぬは(おとこ)の恥。今日は……」

「そうか」

 スフィンの柔らかい笑顔にマッサの口は思わず止まってしまう。

「よし、分かった。それじゃ早速始めるぞ!!」

「ちょ、ちょっと待ってください、シャワーを……」

「貴様に戦いとは何かを、軍人としての心得を教えてやる!!!」

「……は?」

 マッサは間抜けな顔をしていただろう。

「まず第一に、貴様は軽口が多すぎる。軍人たるもの……」

「あ、あの、俺は軍人じゃないので……」

「軍人も冒険者も戦いに身を投じるものとして心得は同じだろう!!」

 この後、スフィンの説教は夜が明ける頃まで続いた。