今日から日記をつけることにしましたの。どうやらわたくし、異世界転生とやらをしてしまったようですわ。
……あぁ、もうやっぱり日記と言い張るのはやめた。それにお嬢様口調も。経過報告書、と称しておこう。そっちのほうが性に合っている。どうも日記は書き続けられないたちらしい。
侯爵家の御令嬢として生まれてしまった。おそらくこれは乙女ゲームの悪役に転生したパターンだろう。 あぁ、困った。大した才能もない非ヒロイン属性の私が処刑ルートを避けられるわけがないでしょ?
なに? 神様って意外と意地悪なんですか? だなんてつぶやいても壁に跳ね返った自分の声が聞こえるだけだった。
そんなことをしている暇があるくらいなら、この世界で生き残るすべでも考えておかなければならない気がする。
あ、一応ほんとにそれが原因なのかは知らないけれど、記憶を思い出した原因も記しておこう。もしかしたら役に立つかもしれない。
古い物置にあった今は亡き母のペンダントを開いたらっていう何ともロマンティックなものだった。にしては、思い出した前世がキラキラしたものではなくて灰色の青春だったんだけど。
でも、残念だったのは一体どんなお母様の思い出が詰まっているものだろうと期待に胸を膨らませていたらそのペンダントの中には写真の類は一切入っていなかったことだ。
代わりに、もっとびっくりすることがあったのだ。
__「で、あるから、ルスタック国の当時の国王は……」
本を片手に黒板をチョークでコツコツと叩く家庭教師の先生を横目に、このくそつまらない授業を抜け出す裏ワザを考え始める。私一人だけのためにわざわざ授業をしてくださっているのはありがたいものだが、もう少し心をくすぐられる内容だったりしたらうれしいものなのだ。
何年の昔の王様がなぜ戦争を起こそうとしてやっぱりやめたのか。とか、割とマジでなんで三歳の女の子が知る必要があるのか疑問でいっぱいだよ!
でも、この世界にはどうやら疑問が溢れているらしく、このくらいの些細なことで動じてはいけないらしい。
そのたくさんある不思議なことを一つ上げるとするならば……さっきの出来事がちょうどいいだろう。__
きょうはおやしきをもおいっかいたんさくすることにした!
ちょっとまえまではなかったおはながたくさんおにわにさいている。……あ! ちょ-ちょだ!
ちょーちょをおおうとはしりはじめると、しかいのはじにちいさなそーこがみえた。
「あれ? こんなところにたてものなんてあったっけ? うーん、はいってみよ!」
そーこにはいったら、まずさいしょにおかあさまのつけていたぺんだんとがめにはいった!
おかあさまはもうちじょうのうえにはいないらしいけど、こうしておやしきじゅうにおかあさんのものがまだのこっているの!
……しゃしん、だれがはいっているんだろう?
「へへ、あけてみちゃえ! ……あれぇ、汚くて見えない。」
ワンピースのぽけっとに入っているハンカチを庭の花についた朝露でぬらしてはペンダントのなかをぬらした。
汚れ擦ってみると、それはどうやら鏡らしく、なぜか薄暗い倉庫の中でどこからか光を反射していた。
「写真が入っているわけではないんだ……。」
……あれ、私、何してたんだっけ? 私ってこんな声だったっけ……?
頭の中に知らない誰かの記憶が流れ出してくる。……違う、知らない記憶じゃない。私の記憶だ。
意味も分からない状況に、と表記したいところだが状況を理解してしまえる自分が悔しい。どうやら流行りの異世界転生をしてしまったらしい。……あぁ、しかもどっかの異世界の貴族のご令嬢に。どうせなら冒険者に生まれたかったなぁ。だなんて思っていても、魔法がある世界かもとワクワクしている自分がいることに気が付く。
【ねえ、きみ。大丈夫そう?】
不意に、知らない声が手元から聞こえてくる。
「え、だれ、どこから?」
後ろを振り返っても、前を向きなおしても誰もいない。それなのに、不思議な声はまた続ける。
「僕だよ。君の手元にあるペンダントから。やっほー。声の主を見つけられて満足したかい? ……えーっと、ロメリアであってる?」
確かに、声はペンダントから聞こえていた。それに、ペンダントにはめ込まれていた鏡にどうやら人影らしいものがもやっと見えたりもしたのだ。
こちらは姿さえも認識できていない不思議な声に自分の名前を知られている恐怖が焦りに代わり、もう一周回って自分の脳は冷静なふりをすることにしたらしい。
「あってるよ。」だなんていっては、「あなたは?」とか、英語の教科書の初期装備みたいな返答を返してしまった。
冷静なふりはどこまで行ってもふりなだけらしい。家庭教師の先生にも、前世の両親にもさんざん言われまくった敬語を他人に、しかも初対面の人に忘れてしまったほどにはやはりパニックなのである。
あぁもう、どうにでもなってしまえ!
「僕? 僕はテリル。テリル・リドル、さ。君には特別にテリーって呼ばせてあげるよ。」
カチッと音を立ててペンダントの扉は閉められた。そう、返事もせずにとりあえず閉めたのである。だって、だってなんか怖いし気持ち悪いじゃないか!
__しゃべる鏡にあった。これが今日一番の不思議な出来事だったのである。
こんな出来事があってしまえば家庭教師の先生のお話だなんて全く頭に入ってこないのは当たり前のことだろう。だなんて、授業を上の空に窓の外のちょうちょに視線を注いだ私をぎろりとにらんだ先生に、意味もなく頭の中で言い訳してみたりしたのだ。
随分上から目線だなぁ。と、それがテリーへの第一印象だった。まさか彼が自分の魔法使いを目指す人生の最大の親友になるだなんて、この当時は思いもしなかったことを覚えている。
最強の魔法使いを目指す悪役令嬢の転生英雄譚、いや、史上最強の魔導師を志す少女のおとぎの魔導書探索冒険譚は、今ここに始まるのである! ……だなんて今、存分にかっこつけておこう。これからこの冒険譚を共にする貴方には私のカッコ悪いところや主人公らしからぬこと(まぁ、実際に悪役だから正しいといえば正しいが。)をたくさん見られてしまうのだから、今のうちなのだ。
……あぁ、もうやっぱり日記と言い張るのはやめた。それにお嬢様口調も。経過報告書、と称しておこう。そっちのほうが性に合っている。どうも日記は書き続けられないたちらしい。
侯爵家の御令嬢として生まれてしまった。おそらくこれは乙女ゲームの悪役に転生したパターンだろう。 あぁ、困った。大した才能もない非ヒロイン属性の私が処刑ルートを避けられるわけがないでしょ?
なに? 神様って意外と意地悪なんですか? だなんてつぶやいても壁に跳ね返った自分の声が聞こえるだけだった。
そんなことをしている暇があるくらいなら、この世界で生き残るすべでも考えておかなければならない気がする。
あ、一応ほんとにそれが原因なのかは知らないけれど、記憶を思い出した原因も記しておこう。もしかしたら役に立つかもしれない。
古い物置にあった今は亡き母のペンダントを開いたらっていう何ともロマンティックなものだった。にしては、思い出した前世がキラキラしたものではなくて灰色の青春だったんだけど。
でも、残念だったのは一体どんなお母様の思い出が詰まっているものだろうと期待に胸を膨らませていたらそのペンダントの中には写真の類は一切入っていなかったことだ。
代わりに、もっとびっくりすることがあったのだ。
__「で、あるから、ルスタック国の当時の国王は……」
本を片手に黒板をチョークでコツコツと叩く家庭教師の先生を横目に、このくそつまらない授業を抜け出す裏ワザを考え始める。私一人だけのためにわざわざ授業をしてくださっているのはありがたいものだが、もう少し心をくすぐられる内容だったりしたらうれしいものなのだ。
何年の昔の王様がなぜ戦争を起こそうとしてやっぱりやめたのか。とか、割とマジでなんで三歳の女の子が知る必要があるのか疑問でいっぱいだよ!
でも、この世界にはどうやら疑問が溢れているらしく、このくらいの些細なことで動じてはいけないらしい。
そのたくさんある不思議なことを一つ上げるとするならば……さっきの出来事がちょうどいいだろう。__
きょうはおやしきをもおいっかいたんさくすることにした!
ちょっとまえまではなかったおはながたくさんおにわにさいている。……あ! ちょ-ちょだ!
ちょーちょをおおうとはしりはじめると、しかいのはじにちいさなそーこがみえた。
「あれ? こんなところにたてものなんてあったっけ? うーん、はいってみよ!」
そーこにはいったら、まずさいしょにおかあさまのつけていたぺんだんとがめにはいった!
おかあさまはもうちじょうのうえにはいないらしいけど、こうしておやしきじゅうにおかあさんのものがまだのこっているの!
……しゃしん、だれがはいっているんだろう?
「へへ、あけてみちゃえ! ……あれぇ、汚くて見えない。」
ワンピースのぽけっとに入っているハンカチを庭の花についた朝露でぬらしてはペンダントのなかをぬらした。
汚れ擦ってみると、それはどうやら鏡らしく、なぜか薄暗い倉庫の中でどこからか光を反射していた。
「写真が入っているわけではないんだ……。」
……あれ、私、何してたんだっけ? 私ってこんな声だったっけ……?
頭の中に知らない誰かの記憶が流れ出してくる。……違う、知らない記憶じゃない。私の記憶だ。
意味も分からない状況に、と表記したいところだが状況を理解してしまえる自分が悔しい。どうやら流行りの異世界転生をしてしまったらしい。……あぁ、しかもどっかの異世界の貴族のご令嬢に。どうせなら冒険者に生まれたかったなぁ。だなんて思っていても、魔法がある世界かもとワクワクしている自分がいることに気が付く。
【ねえ、きみ。大丈夫そう?】
不意に、知らない声が手元から聞こえてくる。
「え、だれ、どこから?」
後ろを振り返っても、前を向きなおしても誰もいない。それなのに、不思議な声はまた続ける。
「僕だよ。君の手元にあるペンダントから。やっほー。声の主を見つけられて満足したかい? ……えーっと、ロメリアであってる?」
確かに、声はペンダントから聞こえていた。それに、ペンダントにはめ込まれていた鏡にどうやら人影らしいものがもやっと見えたりもしたのだ。
こちらは姿さえも認識できていない不思議な声に自分の名前を知られている恐怖が焦りに代わり、もう一周回って自分の脳は冷静なふりをすることにしたらしい。
「あってるよ。」だなんていっては、「あなたは?」とか、英語の教科書の初期装備みたいな返答を返してしまった。
冷静なふりはどこまで行ってもふりなだけらしい。家庭教師の先生にも、前世の両親にもさんざん言われまくった敬語を他人に、しかも初対面の人に忘れてしまったほどにはやはりパニックなのである。
あぁもう、どうにでもなってしまえ!
「僕? 僕はテリル。テリル・リドル、さ。君には特別にテリーって呼ばせてあげるよ。」
カチッと音を立ててペンダントの扉は閉められた。そう、返事もせずにとりあえず閉めたのである。だって、だってなんか怖いし気持ち悪いじゃないか!
__しゃべる鏡にあった。これが今日一番の不思議な出来事だったのである。
こんな出来事があってしまえば家庭教師の先生のお話だなんて全く頭に入ってこないのは当たり前のことだろう。だなんて、授業を上の空に窓の外のちょうちょに視線を注いだ私をぎろりとにらんだ先生に、意味もなく頭の中で言い訳してみたりしたのだ。
随分上から目線だなぁ。と、それがテリーへの第一印象だった。まさか彼が自分の魔法使いを目指す人生の最大の親友になるだなんて、この当時は思いもしなかったことを覚えている。
最強の魔法使いを目指す悪役令嬢の転生英雄譚、いや、史上最強の魔導師を志す少女のおとぎの魔導書探索冒険譚は、今ここに始まるのである! ……だなんて今、存分にかっこつけておこう。これからこの冒険譚を共にする貴方には私のカッコ悪いところや主人公らしからぬこと(まぁ、実際に悪役だから正しいといえば正しいが。)をたくさん見られてしまうのだから、今のうちなのだ。