親父に話を聞いて、俺ははっきりと思い出した。
 
「もしかして、俺のせいで……?」

 俺が、シャイニングマンの決め台詞を言わなければ……。
 事情を知らなかったとはいえ、後悔の念が押し寄せる。
 
「不審者のことも相俟(あいま)っていると思うが、その可能性はある……」
「俺……香西に謝りたい……」
「それはダメだ。逆にヒロ君を意識しているということになる」
「そうね……。それに、あのことは本人もトラウマになっているみたいで、思い出すだけでも発作が出るそうよ」
「手紙でもダメなのか?」
「ヒロ君が直接読むのは、医者として止めなければならない。どうしてもというのであれば、 あの時ヒロ君と一緒にいた女の子がいただろう。その子から間接的に伝えてもらうしかない。しかし、それも内容による」

 あの時一緒にいた女の子って、ツインテールの……。
 もしかして、落合さんか!?
 思い返せば、なんとなく面影がある。
 
「ありがとう。親父、母さん。 俺、やってみるよ」

 俺は、自室に戻って制服のまま手紙を書き始めた。
 着替える時間も惜しいほど、すぐ書かずにはいられなかった。
 香西の性別を意識しないように……だけどちゃんと謝罪の気持ちを込めて書こう。
 それは意外にも難しく、できているかどうかわからない。
 どうせ今日は学校を休んでしまったんだ、じっくり時間をかけて考えるとしよう。
 
 


 
 翌日は朝早く学校へ行った。
 書いた手紙をポケットに忍ばせて、落合さんが来るのを待っていたのだ。
 
「おっはよー」
 
 落合さんは、今日も元気だ。
 その斜め後ろで、香西も控えめに「おはよう」と言っている。
 十年前の姿と重なり、心臓が跳ね上がった。
 昨日、両親から話を聞いたせいで、妙に意識してしまう。
 視界に入れないようにしたが、落合さんがこちらへ向かってきた。
 な、なんだろう?
 
「あー、鳴沢くん。昨日、神楽さんが探してたよ。連絡も未読スルーだって。なんか、新聞部の記事の締切が迫ってるとかなんとか言ってたよ」
「そ、そうか……忘れてた、ありがとう……」

 落合さんはそれだけ言うと、自分の席へ戻って行った。
 しまった……新聞部のことをすっかり忘れていた。
 スマートフォンを確認すると、たしかに神楽さんからのメッセージが何通か入っていた。
 
 しかし、まさか向こうから話しかけてくるとは。
 傍に香西がいると、落合さんだけを呼び出すのは難しいな……。
 いや、まだチャンスはあるはずだ。根気よく行こう。

 やがてチャイムが鳴り、みんなが着席し出す。
 授業の内容は、俺にとっては復習のようなもので、先生が説明する言葉もほとんど上の空で聞いていた。
 俺の席から斜め左へと視線を移すと、香西の席はよく見える。
 香西が頬杖をつきながら黒板の方を見ると、その横顔も。
 今まで、香西の頭の中身ばかり気にしていたせいか、外見をよく見ていなかったことに気づく。
 そりゃあ、新聞部として一部の女子に聞いた時は「カッコいい」の言葉を、少しばかり聞いたことがある。
 だが、その時は同性として「ふぅん、そういうものか」くらいにしか思っていなかった。
 しかし、今見てみると……たしかに中性的な顔立ちだ。
 身長も他の男子より少し低めだった気がする。
 体つき……は、いや、ダメだろう。
 なにを考えているんだ俺は、と頭を振った。

 それよりも、手紙のことだ。
 俺は、手紙を渡すべく一日中落合さんの動向を窺うことにした。
 
 休み時間。
 落合さんは廊下で他の女子生徒と楽しくおしゃべりをしている。
 
「……でさー!」
「えーっ、そうなのー?」
 
 香西本人はいないが、他の人に香西のことを知られるわけにもいかないので、呼び出し辛い。
 やはり、落合さん一人の時を狙わないと……。
 
 昼休みは、学食にいた。
 香西と瀬戸兄妹と一緒だ。
 
「いーなー! あたしも今度行きたーい!」
「おう、みんなで行こうぜー!」
 
 喧騒の中、会話は弾んでいるようだ。
 当然、この状態で落合さんだけを誘い出すなど、不審がられるだけだ。
  
 放課後は、期末テストに向けて図書室で勉強していた。
 
「晶先生! ここ、ここがわかんない!」
「えーと、どれどれ?」
 
 ここでも、香西と瀬戸が一緒だ。
 俺は、そっと図書室を出た。

「落合さん、基本的にいつも誰かと一緒だな!!」

 呼び出しの難易度が高すぎる。
 手紙だから、靴箱に入れるという手もあるが、これは絶対に直接渡したい。
 ……これは、一筋縄ではいかなそうだ。
 
「あーっ! 見つけたわよ、鳴沢くん!」
 
 運悪く、神楽さんと鉢合わせしてしまった。

「しまった! また忘れてた!」
「わ、忘れてたぁ!?  困るわよ、締切今週なのに! 今回で最後なんだから、いい記事にしましょ!」
「いい記事か……」

 手紙を渡すまで、 気持ちが落ち着きそうになかった。
 ……そうだ! 神楽さんに協力してもらえば……!

「神楽さん! 折り入って頼みがある!」
「な、なにかな……?」