ずっと僕の心は何かに囚われていた。


息苦しかった。
周りはきっと分からないだろう。
漠然な不安を抱き続ける。
この怖さが。


まるでシャボン玉の中に閉じ込められたみたい。


怖いよ、怖いよ。
どれだけ叫んでも。
誰も答えてくれないから。


苦しいよ、苦しいよ。
この気持ちを1人で抱えて。
一生を終えるのが。


もう死んでしまおうか。
いや、世界が僕に死ねと言っているのかもしれない。

そうだ。
きっとそうだ。

それならば、

もう、

この世界から

消えよう

その時、僕はこの世界から…
飛んだ

猛スピードで地面が迫るのを感じる。

だが、そのスピードは一瞬で止まった。

ハッ、と我に帰る。

上を見上げると手首を掴まれていた。
閉じ込められたシャボン玉の外から割れないようにそっと手を差し伸べられた。

誰？

太陽の光が君の後ろから差し、表情がよく見えない。

ただ一つ分かるのは、君が必死ということ。
僕の手首に君の力が感じられる。

酷いよ、なんでそんなことするの。
例え、善意だとしても僕はそんなこと望んでない。

そんなことを考えている間に君に引っ張られ、元の世界に、生活に戻されてしまった。

目の前を見ると僕を助けた女の子。

知らない全くの他人。

どうせ君も皆んなみたいに
「死んじゃダメ」
「なんでこんなことするの‼︎」
とか言うんだろうな。

はぁ、なんて綺麗な言葉。
全て口先だけなことくらい分かっている。

この偽善者が。

息を整えた彼女は僕に向き合った。

「私の名前ね、命(いのち)に華(はな)って書いて命華(メイカ)って言うの。」


とても綺麗で透き通った声だった。


「命を華に例えてつけてくれた名前なんだけどね。華は最初は小さな蕾。そこから時間をかけて咲いていくの。そして、またゆっくりと時間をかけて枯れていく。これが華の一生。私たちも同じ。時間をかけて成長しいずれは枯れてしまう。」


優しく語りかけるような声色に僕の気持ちは少しずつ落ち着いていった。


「でもね、あなたが死んでしまうのはまだ早い。まだ、あなたの華は一生懸命咲いてるよ。枯れてない。だから、生きよう。一緒に。そして、私の名前にはもう一つ由来があるの。命に華を与える。死のうとしているあなたの命に小さな蕾をあげるの。成長した花は心に彩りを与えてくれるから。私は蕾としてこの言葉を贈るよ。大丈夫。君は1人じゃない。私がいるよ。」


“1人じゃない”


そんなこと分かっていた。
だけど、周りに頼れるほど信頼できる人もいなくて。
怖くて、ただ単に苦しかった。

いつの間にか僕は1人になっていった。

視界が透明なもので満たされる。
ゆっくりと頬を伝っていく涙。


「あれ、なんで泣いてるんだろ僕。急にごめん。」

涙を服の袖で拭う。

「いいよ。だってこの涙は君が生きている証拠だから。」

彼女はにこりと微笑んだ。

パリンッ

小さく音を立てて何かが割れた。
きっと僕を閉じ込めていたシャボン玉。

僕が彼女の手を取って僕の人生を歩み始めようとしたから。
この小さなきっかけが針となり僕の鎧となっていたシャボン玉に突き刺さった。

そして、シャボン玉は壊れた。

少し息がしやすくなった気がした。
息苦しさも不安もこの怖さもゆっくりと僕の中へと溶けていった。

全てが僕なのだと君は受け止めてくれたから。

新たな一歩を僕は踏み出せる。

大きく息を吸う。

“大丈夫。僕は1人じゃない”


今日もこの言葉を胸に生きていこう。