数年後――。

「これはなんだろう。古代のソリかなにかかな」
「おい、イラ。こっち来てみろ。宇宙船があるぞ」
「宇宙船?」
 仲間が大地を踏みしめて見上げる先には、大きな宇宙船が置いてあった。置いてあるというより、落ちている?
「なんかロックかかってるみたいで開かないんだけど、イラ、開けられる?」
「ちょっと待って。試してみる」
 僕はバッグからカブトムシ型の携帯機を取り出して、宇宙船の入り口に取りつけた。携帯機を軽く操作すると、ドアは簡単に開いた。どうやら古いプログラムを使っているらしい。
 中に分け入る仲間に続いて、僕も足を踏み入れた。
 宇宙船の中はひどくヒビが入っている。モノも、墜ちた衝撃か散乱としていて、足を前に出すたびになにかを踏む音がした。
「げっ、死体?」
 仲間がそんな声を漏らした部屋には、透明な装置の中で眠る何千もの人がいた。僕は頭にかけていたゴーグルを目に持ってきた。ゴーグルのレンズに生命の反応が記される。
「ううん、生きてるみたい。すっごい微弱だけど。これはコールドスリープかなにかかな」
「なんだ、脅かすなよ。……って、微弱ってやべえじゃん。はやく医療班呼んできたほうがいい?」
「いいかも」
 仲間は駆け足で宇宙船を出ていった。

 ふと、部屋を見まわす僕の視界に、装置から投げ出されて横たわる人が映った。部屋の端でぐったりしている、少女。コールドスリープしているらしき人々は装置の中の液体で墜落の衝撃を免れたようだけど、装置の外にいた彼女はきっと……。
 ゴーグルを上げて近づいてみると、人でないことがわかった。皮膚がやぶれて、配線が剥き出しになっている。一瞬ぎょっとしてしまったけれど、見慣れている。ロボットだ。
 ロボットなら直せるかな。
「ね……だ、れ……」
 ロボットが突然、口を開いた。
 なんで? 壊れてるんじゃ……。
「あ、な、た……だ、れ……」
「僕はイラ。君は?」
「わ、た、し……ま、ど、か……。い、き、て、る……?」
「生きてるのがふしぎだけど、生きてるよ。ちゃんと話せるように僕が直してあげる」
「な、お、せ、る……?」
「僕は技術者だからね。師匠には怒られてばっかだけど、これでも免許もってるんだ」
「な、おっ、た、ら……お、は、な、し……で、き、る……?」
「できるよ。僕も聞かせてほしいんだ、この宇宙船のこと。この星のこと。君のこと」
 僕がそう言うと、まどかの目から涙が流れた。
 ロボットでも泣いたりするんだ。すごい機能だなあ。誰が作ったんだろう。
 ……ああ、違う。これは、熱くなった機械を冷却するための水だ。
 でも、ふしぎと僕には、まどかが嬉し涙を流したように見えた。