「兄ちゃんがそんなこと言っちまったら……芽衣はどうなる? 今までの芽衣の気持ちは? 兄ちゃんを助けた芽衣の想いは? 今度は芽衣がそれを全部忘れてこれから生きていけって言うのか?」


「……だって、じゃあどうすればいいんだよ」



今全てを思い出したばかりの俺には、それ以外の方法なんて思い浮かばないんだ。


しかし、



「またそうやって逃げんのか」



そう言われて、俺はハッとして龍雅を見つめた。


「現実と向き合うんじゃなかったのかよ。芽衣と向き合うんじゃなかったのかよ。もう逃げないって言ったのは嘘だったのか? 思い出したらつらすぎて逃げたくなりましたってか? ……ハッ……見損なったよ。芽衣に対する兄ちゃんの気持ちって、その程度だったんだな。それなら、芽衣は俺がもらうから」



龍雅は呆れたようにそう言って、俺から手を離して部屋を出ていった。


玄関のドアが開いて、閉まる音がした。


俺は、その日呆然としたまま一日を過ごした。


仕事から帰ってきた父さんの話もろくに聞かずに、部屋に閉じこもることしかできなかった。