「芽衣は、当たり前だけど兄ちゃんに忘れられてるのはショックだって言ってた。だけど、絶対に思い出してもらうから大丈夫って笑ってた。自分の身体の方が大変なのに、それでも笑ってたんだ」
龍雅は、つらそうに拳を握る。
そして、俺の方を向いた。
「芽衣は、もう会わないって言ったんだよな?」
「……あぁ」
「……あんなに諦めないって言ってたのに、芽衣は、どうして急にそんなこと…… 」
「わからない。だけどあいつ、言ってたんだ。"彼女さんとお幸せに"って」
「え?兄ちゃん、彼女いたわけ?」
「いや、いない」
「それって……」
「……あぁ。もしかしたら、勘違いしてるのかもしれない」
俺と奈子が付き合っているらしいという噂が回っているのは知っていた。
だけど、俺は奈子に断っているし噂なんてすぐ消えるだろうからどうでもいいと思って否定も肯定もしていなかった。
勘違いされて困るような相手もいなかったし、そんな嘘を広めて、それで気が済むなら勝手にすればいいって。
もしその結果、芽衣が本当に俺と奈子が付き合ってるって誤解してたとしたら?
それで、芽衣が俺と奈子を引き裂くわけにはいかないと、自ら身を引こうと思っていたとしたら?
そう考えれば、全てがつながる気がした。