「……事故の後、兄ちゃんが目を覚ました時、まず芽衣の話題が出なかったから不思議だった。兄ちゃんなら、真っ先に芽衣の心配をするはずだと思った」
俺が少し落ち着きを取り戻した頃、母さんは病院と父さんに連絡するからと一度自分の部屋に戻ることにした。
ドアを閉めて少ししてから、一緒に部屋にきた龍雅がぽつりと話し始めたのは、俺が記憶を無くした後の話だった。
「でも兄ちゃんは芽衣の話どころか事故のこともうろ覚えで。まぁ、あの事故は目撃者が多かったから事故の状況はすぐ知れたんだけどさ」
「目撃者……」
そこまで大きな道路じゃなくても、花火大会で賑わっていた周辺。
いくらでも目撃情報はあったのだろう。
「最初は芽衣に合わせる顔がなくて避けてるのかと思ってた。でも、それなら尚更芽衣の話を何もしないのが気になったんだ。いつもの兄ちゃんなら、まず間違いなく芽衣の怪我の具合とかを心配するはずだと思った。だから色々声かけてみたんだけど全部はぐらかされたりスルーされたりして。やっぱおかしいなって思った。だから、兄ちゃんが芽衣のことを忘れてるって知った時は、俺はショックと同時に腑に落ちたって言うか……少し納得しちゃったんだ」
そうでもなきゃ、俺が芽衣の心配をしないわけがない。
龍雅はそう思ったのだろう。
俺だってそう思う。