……俺は、馬鹿だ。


なんて馬鹿なんだろう。


こんなにも、芽衣のことを大切に思っているのに。


思い出してしまえば、こんなにも俺の人生は当たり前のようにずっと隣に芽衣がいたのに。


俺の記憶の中は芽衣のことでいっぱいだったはずなのに。芽衣で世界が彩られていたはずなのに。


今の今まで、二年間もその存在自体を消してしまっていただなんて。


それも、自分自身を罪の意識から守るために。


押し潰されないために。逃げるために。


そんな酷い話が、あるだろうか。


こぼれおちる涙は頬を伝い、床に落ちていく。



"大雅!"



あんなに頑張って俺に向き合ってくれてたのに。



"大雅!おはよう!"



何度俺が冷たくあたったって、めげずに向き合ってくれてたのに。



"大雅は覚えてないだろうけど、わたしたち、幼なじみなんだよ"



俺に思い出してもらいたい、その一心で頑張ってくれてたのに。


俺は、それから逃げて。現実から逃げて。



「あ……あ、あ、ああァあああァあ……!」



全身が、ひどく震えた。


言葉にならない感情が、叫びとなってしばらく止まらなかった。



「あぁぁあああッ……!ぅあぁああぁああ!」



龍雅はもう俺から手を離していて、俺は倒れるように座り込む。


両手で抑える頭は、痛みを通り越してもう何も感じなかった。


ただ、声を出さずにはいられなかった。


何か発していないと、自分が壊れてしまいそうで。



"もう大雅には会わない。だから、安心してね"


"さよなら"



あんなことまで言わせて。泣かせて。深く傷付けた自分が、俺自身に押し潰されてしまいそうで。



「……芽衣……!」



こぼれおちる涙を拭うことすらできない。


そんな俺を抱きしめるように座った母さんと、隙間から視線を合わせるようにゆっくりとその場に座り込んだ龍雅。


頭を押さえて叫ぶ俺に、二人は何も言わずにしばらく寄り添ってくれた。