「兄ちゃんは! ……芽衣を! 命懸けで助けてくれた芽衣の存在を! 自分の心を守るために全部消したんだよ!」



頭を鈍器で殴られたような衝撃がした。


この二年間、俺は一体どれほど周りに心配をかけ、迷惑をかけて、そして自分勝手に生きてきたのだろう。


どれだけ人を傷付けて生きてきたのだろう。



「思い出せ! いい加減思い出せよ! これ以上芽衣を泣かせんなよ!?」



龍雅の涙声が俺の耳に入ってきたとき。


頭の中で、何かが視えた気がした。



"大雅!"



道路の向こうで、彼女が俺に手を振っている。


俺はそれに手を振りかえして、"芽衣"と呼ぶんだ。



「そう、だ……あの時、あいつ、珍しく浴衣着てて。それで慣れない下駄なんて履くから靴擦れして……でも俺、全然気付いてなくて」



"大丈夫だよ、ちょっと靴擦れしただけだから"



滅多に見ない浴衣姿。化粧までしているのか、いつもと違ってその姿を見て落ち着かなかった。


だからこそそれに気を取られて、歩き方が少しぎこちないことに気付くのが遅れた。


慣れない下駄で歩いているんだ。少し考えればわかるのに、靴擦れしていることにその時まで全く気が付かなかったんだ。