「──そんなの、芽衣にとって兄ちゃんがかばってまで失いたくないくらい大切な存在だったからに決まってんだろーが!」


「っ……」


「芽衣は! ……芽衣が病院で目が覚めたとき、まず兄ちゃんが無事かどうかを確認してたって。自分の身体の方が大変で、人の心配してる場合じゃなかったのに。兄ちゃんが軽傷だって聞いて、一番安心してたって。そんな芽衣を、そんな芽衣をっ……兄ちゃんは、存在ごと頭から消したんだっ……」



存在ごと、消した。


龍雅の言葉が、重く心にのしかかってくる。



「多分、芽衣を事故にあわせたことに耐えられなくて。自分のせいで芽衣が目の前で血まみれになってることを信じられなくて。それで、全部から逃げるように芽衣のことを忘れたんだ」



呆然と龍雅を見つめる俺を立たせた龍雅が、グッと俺の胸ぐらを掴んだ。



「この二年間、兄ちゃんが自分から思い出してくれるのをずっと待ってた。芽衣もそう言ってた。だから俺たちは二人を見守ってた。だけどなんだよ今の状況は!? この二年間、一度でも芽衣を笑顔にしたことがあるか?一度でも芽衣の名前を呼んだことがあるか?」



その言葉が、槍のように心臓に突き刺さる。



「兄ちゃんの苦しみもわかる。逃げたくなる気持ちもわかる。兄ちゃんが芽衣のことをどう思ってたのか知ってるから、なおさらわかる。だけど、その負の感情を芽衣にぶつけるのは違うだろ!」



こんなに感情的な龍雅を、はじめて見たかもしれない。


母さんも、龍雅を止めることもせずにただ悲しげに俺を見つめていた。