「……兄ちゃん?」
聞き慣れた声に振り向くと、公園の入口で弟の龍雅が驚いたように俺を見つめていた。
「……龍雅」
「そんなところで突っ立って何してんの?」
「……ちょっと、な」
「ふーん? まぁいいや。今日の晩メシ何か母さんから聞いてる?俺さっきまで友達とバスケしててめちゃくちゃ腹減ってんだよね」
「朝からあげかハンバーグどっちがいいって聞かれたから、からあげって答えた」
「お、さすが兄ちゃん! 大盛りにしてもらってがっつり食おうっと」
俺が言葉を濁したことなど気にする素振りも見せず、食べ物のことしか考えていない龍雅。
……こいつは、全部知ってるんだよな。
確か、俺が二年前に目を覚ましたときに誰よりもあの女のことを必死に教えようとしてきたのは龍雅だった。
次第に逃げるように耳を塞いで怒鳴り散らす俺に一度は諦めたようだったけど、しばらく何か物言いたげな表情をしていたと思う。
普段は二年前と変わらずに"兄貴"として慕ってくれているように見えるけれど、今実際に龍雅がどう思っているのかはわからない。