『大雅、お願い。思い出して……』
もうやめてくれ。頭が痛いんだ。俺はお前の名前すら知らないのに、どうして俺の名前を知っているんだ。ストーカーか?それならやめてくれ。もう放っておいてくれ。
中学を卒業した頃には、もう家族も友達も俺に対して"普通"に接するようになった。
ただ一人、あの女を除いては。
学校に行こうと家を出ると、毎朝あの女が俺を待っている。
『……大雅、おはよう!』
『大雅おはよう。今日は天気いいね!』
『おはよう大雅。昨日の雷すごかったね』
俺の姿を見つけると、毎朝決まって柔らかく微笑む。
そんなの無視すればいいのに、返事せずに歩き出せばいいのに、なぜか俺はそれができずに必ず何かしら返事をしてしまう。
『……またいんのかよ、ストーカー』
『ストーカーじゃないよ。──だよ』
……まただ。こいつの名前はどうしても俺の耳には届かない。
耳鳴りがひどくて、顔を顰めて逃げるように走り出す。
でもあの女が俺に話しかけたり付き纏うのは何故か朝だけだ。だから今逃げてしまえば今日はもうあいつの顔を見なくて済む。
俺は全速力で学校に向けて走った。