「──いがくん?大雅くーん?」



ふと名前を呼ばれて我に帰った時、無意識に呼吸を止めていたらしく大きく息を吸うと咳が出た。



「大雅くん大丈夫!?」



涙目で咳き込む俺にかけられた声は、最近よく俺に絡んでくる斉藤 奈子のもの。


その大きな目が俺を見つめていた。


心配そうなその視線を見るに、どうやら何度も俺の名前を呼んでいたらしい。



「っあぁ……悪い、さっき何か言ったか?」


「ううん、もう放課後なのに大雅くん帰ろうとしないみたいだから変だなと思って呼んだだけ」


「……あ、え?」



言われて視線を上げると、すでに授業は全て終わった後で、教室には少ししか人は残っていない。


いつのまに……。


そう思ってしまうほどに、全く時間の流れを感じないままボーッとしていたようだ。



「本当に大丈夫? 今日はずっと上の空だったけど。具合悪いのー?」


「いや……大丈夫。ちょっと寝不足なだけだから。じゃあ俺も帰るわ」


「……私も一緒に帰ってもいい?」


「悪い。ちょっと今は一人になりたい」


「……そっかあ。ごめんね。気を付けてね! また明日ー!」



なんとなく早くこの場を離れたくて、奈子に適当に返事をしてから片手を上げて、カバンを持って教室を出る。