「……」


「さっき大雅くんの家の前で会ったじゃん」



言われることは大体わかっていた。わかっていても、心が重くなる。


だけどそれ以上に、ここ数週間見ていた大雅に対する態度と今の奈子ちゃんが全然違って、それが怖くてたまらない。


本当に目の前の人は今朝の人と同一人物なのかと疑ってしまうほどだ。



「はぁー……。ほら、あんたもわたしと大雅くんの噂聞いたでしょ?」


「……噂?」


「そう。実はわたしたち、最近付き合い始めたの」



ドクンと、胸が軋むように大きな音を立てて。


次の瞬間、握りつぶされたように苦しくなった。



「まぁ、だから朝一緒に登校しようと思って大雅くんのところに行ったらいつもあんたがいるから気になって。大雅くんに何回か聞いたら今朝教えてくれたの。大雅くん、あんたにすごく迷惑してるんだって。今まではフリーだったから誰も何も言わなかったと思うけど、わたしは大雅くんの彼女だから言わせてもらう。もう、わたしの彼氏に付きまとうのやめてくれない? あんたみたいな地味な女に付きまとわれて大雅くんが可哀想だよ」



奈子ちゃんはそれだけ言うと、最後に「そんな陰湿な顔してストーカー女とかマジキモい。惨めすぎ」と嘲笑うように吐き捨てて空き教室を出て行った。


奈子ちゃんの足音が遠ざかり、スイッチが切れたように壁に背中をつけて体重を預ける。