「あ、ねぇねぇ大雅くん。あの子誰? さっき大雅くんのこと呼んでなかった?」
「あ? あぁ。いいんだよ別に」
「ふーん? あ、待って大雅くん! 一緒に行こうよー!」
何かの間違いであってほしい。頭の片隅でそう思っていた願いが、いとも簡単に崩れ落ちた。
あぁ、あの噂は本当だったんだ。
大雅は、奈子ちゃんと付き合い始めたんだ。
そう思ったら、我慢していた涙が目に溜まる。
「っ……うぅっ……」
泣いちゃダメ。泣いちゃダメなのに。
必死に泣くのを我慢して、傘を持つ手を強く握って学校に向かう。
「芽衣、おはよう。……芽衣? どうしたの?」
「紫苑……」
「ちょっ……保健室行こう」
わたしをひと目見て様子がおかしいと察してくれた紫苑に連れられて保健室へ向かう。
道中、何も言えないわたしを紫苑は支えるように背中をさすってくれる。
保健室には先生はいなくて、勝手にベッドを使わせてもらうことにした。
「で、何があったの?」
「さっき、来る時に……大雅に声かけようとしたら、奈子ちゃんが来て……」
「え?」
「それで、奈子ちゃんが大雅に一緒に学校行こうって行って、大雅も勝手にすればって……。それでっ、大雅の傘の中に入ろうとしたり……あの噂、やっぱり本当だったんだって思ったら、つらくて……」
「そうだったんだ……」
紫苑に大雅と奈子ちゃんのことを全てを伝えると、紫苑は優しく抱きしめてくれた。
「つらかったね。がんばったね、芽衣」
「しおんっ……」
「大丈夫。いっぱい泣いていいんだよ。わたししか見てないから、泣くの我慢しなくていいんだよ」
「っ……ああああぁ……」
紫苑はわたしが泣き止むまで、ずっとそばにいてくれた。
この日から、わたしの日記は毎日同じ文章が続くようになる。
"今日は挨拶ができなかった"と。