「……あ?」


「あ、大雅、おは──」


「大雅くん! おはよう!」



奈子ちゃんの噂が広まってしばらく経った日の朝。


雨で視界の悪い中、いつも通り挨拶しようとしたわたしを遮るように横から聞こえた高い声に、思わず足を止めてしまった。



「……奈子? なんでここに?」



大雅の困惑した声に、わたしは頭を殴られたかのような衝撃を受ける。


この子が、斉藤 奈子ちゃん。



「大雅くんと一緒に登校したくて、早起きしてきちゃった! ね、一緒に行ってもいい?」



雨音にかき消されそうな大雅の声とは違い、明るく元気な可愛らしい声。



「……勝手にすれば」



それに対して面倒くさそうに吐き出して、大雅は歩き出す。



「大雅くん、傘入れてよぉ」


「は? お前傘持ってんじゃん。何で閉じんの? 自分でさせよ」


「ひどーい。大雅くんと相合傘したかったのにー」


「いやそういうのだるいから」


「そっかあ、残念。わかったあ。でも一緒に行くのはいいよね?ね?」



返事を聞く前に大雅の隣に並んだ明るい茶髪の女の子が、私の方を振り向いて首を傾げた。