「大丈夫?」


「え……」


「さっき見てたの。永原くんだって前見てなかったのに謝りもしないで酷い言われようだったから心配で。立てる?」


「あ、ありがとうございます……」



一部始終を見ていた女の子にそう声をかけられるまで、わたしはずっとボーッとしてしまっていたらしい。


その子の手を借りて、立ち上がってもう一度お礼を告げる。



「でも永原くんのあんな表情見たことなかったからちょっと意外だったかも。永原くんってあんな風に怒ってるっていうか思い詰めたような表情するんだね。奈子もフラれたって言ってたし、虫の居所でも悪かったのかなあ」



どうやら同級生だったらしいその子は、独り言を呟きつつわたしが怪我をしていないのを確認するとどこかへ行ってしまった。



"奈子もフラれたって言ってたし"



その言葉が妙に引っかかったけれど、すでに彼女はいないから聞くに聞けず。


大雅、告白されたのか……。


わたしももう勉強する気が無くなってしまい、カバンを持って図書室を出る。


いつの間にか雨は落ち着いていたらしく、小雨とまではいかないものの傘があるから濡れて帰る心配はなさそうだった。


もうとっくに帰ってしまったのだろう、そこには大雅の姿は無かったけれど、わたしの心臓はしばらくうるさく動いていて。



「……もっと、ちゃんと話したかったなあ」



そんな呟きは、虚しくも雨音にかき消されていった。