あのとき、大雅が事故に遭いそうになって、勝手に身体が動いて大雅を助けた。
それに後悔なんてなかった。
誇らしささえ感じてた。
両親にはものすごく怒られたから言えなかったけど、大雅が助かるならわたしが怪我をするくらいどうってことなくて。早く大雅に会いたい。それだけしかなくて。
だからキツいリハビリも頑張れたのに。
わたしのことを忘れられてしまうなんて想像もしていなかった。
何が起こっているのかしばらく何も考えられなかったわたしは、
「……ごめんね、またくるね」
と震える声で伝えた後に、耐えきれずに逃げるように大雅の部屋を後にした。
たった数十秒の隣の自宅までの距離が、ものすごく長く感じて。
堪えていた涙が、お母さんが「どうしたの?」と聞いてきた瞬間に溢れ出して止まらなかった。
その後大雅は病院に行きいろいろと検査をしたらしい。後日おばさんとお母さんから聞いた話によると、大雅は【系統性健忘】という"特定の人物やそれに関係することを全て忘れてしまう"という記憶喪失に陥ってしまっているらしい。
難しいことはよくわからないけれど、つまり大雅はわたしのことだけをすっぽり落としたみたいに忘れてしまったんだとか。
わたしの名前や顔どころか、大雅の中ではわたしの存在自体が無かったことになっていた。
大雅を助けたことに後悔はない。何度でもそれは言い切れる。
だけど、突きつけられた事実はわたしを絶望させるのには十分すぎるものだった────