「芽衣! 芽衣!」



切羽詰まったように必死にわたしの名前を叫ぶその声に、わたしは聞き覚えがあった。


小さい頃からずっと隣にいたんだ。わからないわけがない。


その声でいつかまた名前を呼んでもらえるのを、ずっと夢見ていたんだ。


でも実際に呼ばれると、それが信じられなくて。恐る恐る声がする方を見つめた。



「……た、いが……?」



喉からわずかにこぼれ落ちるようなわたしの声は、離れたところからは聞こえるはずがないのに。



「……芽衣!?」



まるでわたしの声に本能で反応したかのように、わたしの元に一直線に向かってくる影。


それが誰かなんて、顔が認識できなくたってすぐにわかった。



「──芽衣!」



ガバッと、強く抱き寄せられた身体。


何が起こっているのか、頭が追いつかない。


走ってきたのだろう、少し汗のにおいを漂わせたその首筋に、無意識に滲んだわたしの涙がこぼれ落ちる。



「……たい、が……? なにこれ、ゆめ……?」



声が震えて、身体が震えて、呼吸が乱れる。
何が起こってるの?


諦めるって決めたのに、大雅のことが恋しいあまりに夢でも見ているのだろうか。


だって、だって。大雅はわたしのことを忘れているはずで。わたしの顔なんて見たくもないはずで。


わたしも大雅のことを忘れて生きていくって、そう決めたのに。


どうして、どうして大雅がわたしの名前を呼ぶの?


どうして大雅がわたしを抱きしめているの?


どうして、大雅がここにいるの?



まるで、わたしを探していたみたいに。そんなわけないのに。