「さんきゅっ……」
「ちょっと大雅くん!?」
向こうに芽衣がいるはずだ。急がないと。
衝動的にそのまま走り出しそうになった俺の服をぎゅっと掴んだ奈子。
「どうしたの? 高台に何か用事?」
焦ったような声色に、俺ははやる気持ちを抑えて深呼吸をした。
「……人を、探してるんだ」
「人? ……でもすごい混んでたから見つけるのは大変だと思うよ。今はやめといた方がいいんじゃ……」
「──今じゃなきゃダメなんだよ!」
「っ! ……大雅くん、どうしたの?」
俺が声を荒げると、肩を跳ねさせて驚いた奈子。
「ごめんっ……でも、どうしても今じゃなきゃダメなんだ。これ以上、後悔したくないんだ」
ごめん、奈子。そんな顔をさせたいわけじゃない。奈子を怯えさせたいわけじゃないんだ。違うんだよ。
でもごめん。俺が今求めてるのは奈子じゃない。今までもこれから先も、芽衣だけなんだ。
覚悟を決めたんだ。今度こそ、俺が芽衣を支えるんだって。
わかってくれとは言わない。だけど、今すぐその手を離してほしい。
「……奈子、俺はやっぱりお前の気持ちには応えられない。ずっと昔から好きな人がいるんだ。ごめん。勝手ににすればいいって野放しにしてたけど、俺と付き合ってるとか変な噂流すのはもうやめてくれ。正直迷惑だから。じゃあ、俺もう行くから」
「大雅くん……!? ちょっと待って!?」
呼び止める奈子の悲痛な声を振り切り、俺は高台に向けてまた走り出した。