「……芽衣」
「え?」
「俺、龍雅」
「龍雅。ごめん、全然気付かなかった」
「いや、俺も急に話しかけて悪い」
「ううん」
龍雅も事故現場を見に来たのだろうか、わたしの隣に並んで道路をじっと見つめる。
「……なぁ、芽衣」
「なに?」
「兄ちゃんに、もう会わないって言ったんだって?」
「うん。大雅から聞いたの?」
「うん」
「そっかあ……」
落ち込んでいるような声色の龍雅とは反対に、わたしはほんの少しの嬉しさを隠すことができない。
「なんか、嬉しそうだな」
「……変だよね。大雅がわたしの話をしてたってだけで、良かったなって思っちゃうなんて」
毎日嫌がられて、煙たがられて。それでも、わたしの存在が大雅の中に少しでも残っているなら、もうそれでいいや。そう思ってしまうなんて。
「それくらい、芽衣は兄ちゃんを大切に思ってるってことだよ」
「……ありがとう」
龍雅は、ずっと大雅にわたしのことを話してくれていたのを知っている。
大雅が思い出せるように、わたしのことを何度も根気強く伝えてくれていたのを知っている。
大雅の家族として、葛藤しながらもわたしの気持ちを尊重してくれたこと、こうして変わらずわたしに寄り添ってくれること、当たり前のように側で励ましてくれること。
全部、当たり前じゃない。
もっともっと、感謝しないといけないんだ。