数日後からまずは毎日大雅に挨拶することにした。


大雅のお母さんには複雑な表情をされたけど、でも許してくれた。


大雅がわたしのことを忘れてるなら、また知ってもらえばいい。


少しずつ、時間をかけてわたしを思い出してもらおう。


とは言え、学校で会ったら相貌失認のせいで誰が誰だかわからなくなってしまう。


帰りもいつになるかわからない。


だから、確実に会えるであろう朝、大雅の家の前で待つことにした。


大雅の弟の龍雅の方が家を出る時間が早いのを知っている。


だからその時間が過ぎて、あとは大雅が出るだけのタイミングを狙った。



『……行ってきまーす』



予想通り大雅の声と共に玄関の扉が開き、中から同じ学校の制服を着た男子生徒が出てきた。


……その表情はやっぱりわからなかったけど。


切ない気持ちを抱えながら見つめていると、大雅はわたしを見つけた瞬間、頭を押さえた。



『お前……この間の……』



その声色は決して良いものではなかったけれど、わたしは覚悟を決めて口角を上げた。



『大雅、おはよう!わたし、三上 芽衣。覚えてないと思うけど、大雅の幼馴染なの』



最初は、



『……は?……なんなんだよお前、誰だよ……』



と言ってわたしの横を通り過ぎるだけだった。


やっぱりわたしのことは覚えていないみたいだった。誰だよと言われるのは心が苦しかった。


だけど、数日前に会ったことはちゃんと覚えてくれていた。


たったそれだけのことが、泣きたくなるほどに嬉しくて。



『……明日も、頑張ろう』



その日から、わたしの途方もない一方的なやり取りが始まった。