聞いたこともない名前を言われてもピンとはこなかった。でもそう説明してくれるお医者さんや付き添いの看護師さんの表情がわからないからきっとそうなんだろう。
交通事故による後天的な脳障害。つまり、一生治ることは、ない。
病室に戻って鏡で見た自分の顔すらわからなかったとき、全てを受け入れて生きていくしかないのだと悟った。
それが、お父さんやお母さん、大雅、紫苑、透くん。皆にとんでもなく大きな心配をかけて迷惑をかけたことの対価なのだと感じた。
最初は誰かが病室に入ってくるだけで肩が跳ねた。
白衣を着ていればお医者さん。ナース服を着ていれば看護師さん。
見たことのある私服や鞄。お父さんとお母さんはすぐにわかった。
紫苑が連れてきてくれた仲が良かった友達数人。
制服を着ていると、誰が誰なのか見分けがつかなくて怖くなってしまった。
盛り上がる会話に、わたしだけがついていけなくて後で紫苑に謝られてしまう始末。
周りの皆にはすぐに笑顔を見せるように心がけていたけれど、気持ちは全く晴れずに毎晩一人、大泣きした。涙が枯れるほど泣いた。
そして、もうこの後遺症と一生共に生きていくしかないんだと、決意した。
そんな私が、退院して真っ先に向かったのは大雅の家だった。
大雅が軽症で済んだという話はお母さんから聞いていた。だけど、この目で見ないと安心できなかった。
軽症なら少しくらい病室に顔を出してくれたっていいのに。大雅の表情はわからないけれど、元気な声だけでも聞かせて欲しかったのに。
わたしのことを嫌いになった?無茶しすぎたから?もしかしてまだ怪我が治ってなかったりする?
そんなことまで考えた。