『だ、れ……?』


『何言ってるの? 芽衣? お母さんよ?』


『お母さん? でも、なんで?顔が……』


『顔? 顔がどうしたの?』


『そっちにいる人は……?』


『芽衣、どうしたんだ? お父さんの顔……忘れちゃったのか?』


『お父さん……? お母さんと、お父さん。わかる。わかるよ。でも、なんで? どうして? わかんない……誰、なんで、わかんない……っ、ああああああ!!』



わたしはあの事故の後、病院で目が覚めたときから目の前にいる人たち全員の表情が認識できなくなった。


髪型、背丈、服装、声、喋り方。様々な情報でその人が誰なのか、知ってる人であればどうにか認識することができた。


だけど、一番大切な顔がわからない。


目、鼻、口、耳、眉。顔のパーツは見えるしわかるのに、そこにその人の顔があるのはわかるのに。


なぜかその一つ一つのパーツを表情として頭の中でつなぎ合わせることができない。


今までどうやって顔というものを認識していたのか、わからなくなってしまった。


顔全体を見ようとするとぼやけてしまって、目の前の人が笑っているのか怒っているのか泣いているのかさえもわからなくて。


病院に来てくれたお母さんとお父さんの顔を見て、紫苑や透くんの顔を見て。


声を聞けば、お父さんとお母さんだとわかるのに。


声を聞けば、紫苑と透くんだとわかるのに。


頭の理解が追いつかなくて、パニックになって勝手にこぼれ落ちる涙。


事情を説明すればすぐに検査になり、お医者さんには【相貌失認】という脳障害だと言われた。