人混みの中、わたしは今年も一人で町外れにある高台に向かう。
道中にあるコンビニの目の前の道路。そこで立ち止まった私は、一つ目を閉じた。
今でも事故の光景は鮮明に思い出せるのに、その中にいるはずの大雅の表情はわからない。
わたしを抱きしめて叫ぶように泣いていた。なのに、その泣き顔は思い出せないのだ。
この二年間、わたしは毎朝大雅に会いに行った。
雨の日も、雪の日も。どんなに怒鳴られても煙たがられても、迷惑だと言われても。
大雅を苦しめているだけだということは、もちろんわかっていた。
本当に大雅のことを想うなら、大雅のことをわたしが忘れるべきだということもわかっていた。
今の大雅の幸せな生活を壊すべきではないということも、わかっていた。
だけど、どうしても諦められなかったんだ。
いつからかわからないくらい昔から、ずっと好きで。大切で、隣にいるのが当たり前で。
こんなにも、狂おしいくらいに好きなのに。
それを伝えることは、わたしにはもうできない。
『……浴衣似合ってるよ』
事故の前にそう照れ臭そうに言ってくれた大雅の表情を、思い出すこともできない。
大雅の隣にわたしが並ぶことは、もうできないんだ。