だから、歩いていてすれ違った時にも芽衣は何も言わないどころか視線も合わなかったんだ。
俺のことを避けてたんじゃない。そもそもそれが俺だと、芽衣は気が付いていなかったんだ……。
確実に俺のことを俺だと認識するには、朝俺を待ち伏せするしかなかったんだ。
俺のことだけじゃない。誰のことも、家族や自分のことですらわからなかったなんて。
芽衣は一体、どんな気持ちでこの二年間を過ごしていたのだろう。
どんなに孤独だったか、どんなにつらかったか、どんなに苦しかったか。
命懸けで守ったはずの俺に、あんな態度を取られて存在自体を忘れられて。さらにはそんな後遺症にも苦しめられて。
俺は何も知らなかった。知ろうともしなかった。
本当はそんな苦しんでいる芽衣を俺が支えてあげなきゃいけなかったのに。
今度は俺が助けてあげなきゃいけなかったのに。
なのに俺は芽衣から逃げて、思い出すことから逃げて、現実から逃げて。
本当に、何度謝っても謝りきれない。
それどころか、俺は芽衣に謝る資格すらないかもしれない。それくらい、酷いことをしてしまった。
「それでもね、芽衣はあの日大雅を助けたことに後悔なんてひとつもしてないの」
「……え?」
俺の代わりに大怪我をしたのに?
それがきっかけで俺は芽衣の存在を忘れてしまったのに?
そのせいで後遺症を負わせてしまったのに?
にわかに信じられなくて顔を上げると、紫苑はあきれたような笑顔を浮かべていた。