「……大雅も知ってると思うけど。芽衣が大雅をかばって車に轢かれた時、芽衣は地面に頭を強く打ったの」
芽衣を抱き寄せた時のべったりとした赤黒さは、頭からの出血だったのを思い出す。
脳裏にこびりついたその映像を、頷きながらもぐっと目を閉じて遠くに追いやった。
「奇跡的に命に別状は無かった。だけど芽衣は……今も、その時の後遺症に苦しんでる」
「……後遺症?」
紫苑が透の方を見て頷いて、そして覚悟を決めたように俺に向き直って口を開いた。
「……芽衣は今、人の顔がわからない障害と戦ってるの」
「……人の、顔?が、わからない?」
「芽衣は、事故の時の後遺症で【相貌失認】っていう、"人の顔が認識できない脳障害"を負ったの。
芽衣は二年前からずっと、大雅の顔も透の顔もわたしの顔も、家族の顔どころか鏡を見ても自分の顔ですらわからないの」
それを聞いた瞬間。
俺の視界は色を失ったかのように真っ暗になった。