むしろ、一発だけじゃ足りないくらいなんだ。


殴られることで許されるなら、いくらでもこの身を捧げる。ぼこぼこにしてくれたって構わない。


だけど。



「でも、そんなことしたって何も変わらない」



それは紫苑の心までもを傷つけてしまうだけだということを、わかっている。


そんなこと、あってはならないんだ。



「大雅を恨んだって意味がない。大体、そんな顔してる大雅を殴れるわけがない。……だったら、わたしは芽衣のために、大雅の背中を押すよ」


「……紫苑」



力強い視線が、刺すように伸びてきた。



「ねぇ大雅」


「……あぁ」


「大雅は、どうして芽衣が朝しかあんたに会いに行かなかったのかわかる? どうして同じ学校なのに朝以外話しかけるどころかすれ違っても目も合わなかったのかが、わかる?」


「紫苑、お前」


「透はいいから。……大雅、どうなの?」


「……それは……わからない」



言われて、確かになぜだと疑問が残る。


クラスが離れているからほとんどなかったけれど、すれ違ったことは数回ある。


透と歩いている時や、芽衣が紫苑と一緒に歩いている時。そういう時は決まって俺を切なげな目で見ていたのを知ってる。


だけど、お互い一人の時は俺に全く気がつく様子も見せず、通り過ぎて行っていた。